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フクシマからの報告1(中) 避難情報不十分 国の対応、住民を翻弄

 ■水素爆発■

 地震と津波の発生から丸1日が過ぎた12日午後3時36分、東京電力福島第一原子力発電所の警備員今野定雄は正門で「ドーン」と鈍い音とともに足元に強い衝撃を感じた。

 原発に勤めて20年以上がたつが、一キロほど離れた1号機で水素爆発が起きたとは想像もつかなかった。緊迫した表情の東電社員や協力企業社員が次々に構内に入ってきた。パトカーや消防車も続々と到着する。「ただごとじゃないな」。時間の経過とともに不安が大きくなった。

 高齢者49人が屋内に退避していた双葉町の福祉施設。1号機から三キロほど離れている。ここにも「ボン」と重い音が届いた。原発の建物は確認できないが、湯気のような白い煙が立ち上っている。「ついに来た。町が全滅する」。職員は窓の外の光景に立ちつくした。

 同日夕、東電福島事務所長の松井敏彦の顔は緊張していた。福島市の県災害対策本部会議。県幹部を前に、か細い声で「1号機が水素爆発しました」と報告した。「けが人はいるのか」「格納容器は大丈夫か」。県側から質問が浴びせられる。「これ以上の情報は入ってません」と答えるしかなかった。情報の少なさにいら立つ知事佐藤雄平は「しっかり情報を上げてくれ」と念を押した。

 ■知事の決断■

 水素爆発からおよそ20時間前の11日午後7時3分。首相菅直人は国内で初めての「原子力緊急事態宣言」を発令した。津波で外部、非常用の全ての電源を失った福島第一原発1、2、3号機は原子炉の水位が低下していた。

 午後8時半すぎ。2号機のデータはあと1時間程度で燃料露出の可能性を示した。東電の担当者は県災害対策本部の職員に「このまま原子炉内の水位が低下すれば、燃料棒が露出し、外部に放射性物質が漏れ出る可能性がある」と報告。緊急事態を伝えられた佐藤はすぐに会議室で幹部職員と対応を協議した。

 同じ情報は政府にも届いているはずだが動きはない。「避難指示を出すべきか」「避難指示の区域は二キロか三キロか」-。時間はかけられない。20分後、佐藤は2号機から半径二キロ圏内に住んでいる大熊、双葉両町の住民の避難指示を決断した。電話やテレビを通じて対象となる住民に避難を要請。合わせて副知事の内堀雅雄を現地の県原子力センターに派遣した。

 およそ30分遅れて国は半径三キロを避難指示、十キロを屋内退避とする。記者会見する官房長官枝野幸男は「念のための措置」を強調した。

 県生活環境部次長の荒竹宏之は「法令に基づく指示ではないが、人命を最優先に考えた」と話す。

 ■首長動く■

 立地自治体は政府の対応に翻弄(ほんろう)された。政府は12日午前に福島第一原発から半径十キロを避難指示とし、1号機の水素爆発後に半径20キロに拡大した。福島第二原発もこの日だけで三キロから十キロに避難指示エリアを広げた。

 原子力安全委員会が想定する放射性物質の影響範囲は8~十キロ。20キロにまで拡大する事態に県の防災担当者は「十分な余裕を持っての半径十キロ圏内だったはず。20キロなんて考えたこともなかった」と事態の重大性を認識する。

 そのころ、元経済産業副大臣で参院議員・増子輝彦は複数の閣僚と連絡を取っていた。「20キロの根拠は何だ」「最悪の事態を想定しているのか」。政府内にはさまざまな見解が交錯していた。

 原発立地地域の対応は素早かった。双葉町長の井戸川克隆は最悪の状況を想定し、早い段階から大型バスを手配。町民を川俣町に移動させ始めた。

 福島第二原発が立地する富岡町はエリア拡大を受け、福島第一原発から20キロ以上離れた川内村役場への移動を決定する。

 12日午前6時50分、町の防災無線は「原子力災害に備えて、町民の皆さんは川内村役場に避難してください。バスが出るので慌てず乗車してください」と案内。川内村に向かうたった一本の県道は渋滞が始まっていた。

 1号機の水素爆発から3時間余が過ぎた12日午後7時、南相馬市防災安全課主査の高野真至は市役所正庁で開かれていた災害対策本部会議に息を切らしながら入ってきた。「今、20キロ圏内にも避難指示が出ました」。市長の桜井勝延は顔をこわばらせ「地図に20キロ圏内を示せ」と叫んだ。

 20キロには市内の一部が入る。「避難所はどう確保するのか」「圏内の避難所に避難している人たちの移送手段は」。次から次に浮上する課題に市幹部は苦悩した。

 20キロ圏外の葛尾村。避難指示の範囲拡大に村災害対策担当課長の松本静男は危機感を抱いた。県に情報提供や対応策の検討を求めたが、県も混乱している。「国や県はあてにできない」。管理職が集まり、国民保護法に基づいて作った「村内退避マニュアル」を準用できないか検討した。自力で移動できない村民のためにマイクロバス四台を用意。14日夜、村は村外への避難勧告を出す。

 政府は15日、第一原発から半径20~30キロ圏内を屋内退避とした。川内村に移った富岡町の避難者は村民とともに郡山市に再移動を余儀なくされる。

 南相馬市は市内が避難指示、屋内退避、区域圏外に分断された。避難生活と屋内退避による不自由。住民の困惑は続く。(文中敬称略)

【地震発生後の福島第一、第二両原発の主な動き】

◇3月11日(金)

午後2時46分 東日本大震災発生。大熊町で震度6強を記録

午後7時3分 菅直人首相が原子力緊急事態宣言発令

午後8時50分 佐藤雄平知事が第一原発2号機半径2キロ圏内に避難指示

午後9時23分 首相が第一原発半径3キロ圏内に避難、半径10キロ圏内に屋内退避指示

◇3月12日(土)

午前0時49分 第一原発1号機の原子炉格納容器圧力が上昇

午前5時44分 首相が第一原発半径10キロ圏内に避難指示

午前7時45分 首相が第二原発半径3キロ圏内を避難、半径10キロ圏内を屋内退避指示

午後3時36分 第一原発1号機で水素爆発

午後5時39分 首相が第二原発半径10キロ圏内に避難指示

午後6時25分 首相が第一原発半径20キロ圏内に避難指示

◇3月15日(火)

午前11時   首相が第一原発半径20~30キロ圏内を屋内退避に

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