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フクシマからの報告1(下) 放射線の不安続く 判断示さぬ国に不信

富岡町から川内村に向かって避難する車の列=3月12日午前7時30分ごろ

 ■数値上昇■

 「屋外で子どもを遊ばせることはできるのか」「窓を開けても大丈夫か」-。

 県の放射線に関する相談専用電話。県災害対策本部のある福島市の県自治会館一階の一室に県職員六人が24時間態勢で詰める。三台の電話はほぼ鳴りっ放し。10日も日中だけで200件を超える相談が来た。1時間以上にわたって疑問を一点一点確認する人。泣きだす人。不安は切実だ。「どうしたら分かりやすく説明できるだろう」。担当者は試行錯誤の毎日を送る。

 原発が立地する本県は放射線量を監視する23カ所のモニタリングポストを常設している。数値は3月14日ごろから上昇傾向を見せる。事故後、移動式を含め県内の75カ所で測定するよう体制を強化した。

 福島第一原発から約40キロ離れた飯舘村役場。隣にある村交流施設「いちばん館」に放射線測定機を設けた。3月15日午後6時20分に1時間当たり44・70マイクロシーベルトを記録した。

 数値は村の当直の中堅・若手職員が2、3人で1時間おきに測定し、県災害対策本部に報告する。「せめて他の地域と同じレベルまで数値が下がってほしい」。村総務課企画係主査の三瓶真は祈るような思いで測定機に向かう。

 4月に入り、五マイクロシーベルト台にまで下がってきているが、他の測定場所の数値に比べるとまだ高い。村民からも問い合わせがある。「この数値はいつまで続くのか」「健康に影響はないのか」。はっきりと答えられないもどかしさが募る。

 ■飛散物質■

 県内の放射線量の増加は福島第一原発で12日と14日に起きた1号機と3号機の水素爆発による放射性物質の拡散が大きな要因とみられている。2号機も格納容器の一部が破損し放射性物質が漏えいした可能性がある。

 事故が発覚し、中通り地方で災害対策に携わっていた県幹部は福島第一原発周辺の風向きが気になっていた。原発行政にも関わった経験のあるこの幹部は、この時期にはさほど吹かない北西に向かう風に懸念を抱く。

 「阿武隈山系を越えて中通りに放射性物質が到達するかもしれない」。大気中に放出された放射性物質は細かいちりのようなもの。その動きは風に大きく左右される。心配は現実のものとなる。

 非常時の初期段階で放射性物質の広がりや濃度を予測するシステム(SPEEDI)は震災のあった3月11日、最初の予測をはじきだしていた。文部科学省の依頼を受けた原子力安全技術センターが気象データを基に仮の放射性物質の拡散状況を試算した。

 このデータは公表されず、23日になって新たな数値を使って予測を出す。公表、非公表について原子力安全委員会の担当者は「放射線源が特定できず、信頼度が低かった」と理由を説明。県の放射線測定担当者は「既に放射線量を測定しているのに、予測結果を示されても意味がない」と不信感をあらわにした。

 ■学校も測定■

 事故後、放射性物質の人への影響を表す単位のシーベルトや放射能の強さを示すベクレルなど聞き慣れない言葉がよく聞かれる。知事佐藤雄平は県民に放射線に関する的確な知識を伝える必要性を痛感していた。福島医大のアドバイスを受けて放射線の世界的権威をそろえる長崎大に支援を依頼する。

 県放射線健康リスク管理アドバイザーに就いた同大教授で世界保健機構(WHO)緊急被ばく医療協力研究センター長の山下俊一は早速、一般向けの講演会を始めた。

 3月20日、いわき市で開いた初の講演会。山下は放射性物質を「ちり」に例えて分かりやすく説明。最も知りたい体への影響は「現在の数値なら影響はない」と断言した。山下らアドバイザーの講演はこれまで13回を数える。

 農産物の出荷規制に加え、放射性物質を含んだ汚染水の海への放出によって影響は漁業界にも拡大した。「このままでは福島県の漁業はなくなってしまう。国が責任を持ってほしい」。今月3日、県漁連会長の野崎哲は福島市を訪れた民主党幹事長岡田克也に漁業者の悲痛な叫びを代弁した。

 自宅があるいわき市から東京などに出向き、漁業者の窮状を関係省庁や団体に訴える。漁業者たちからの「早く漁をできるようにしてくれ」との懇願に自らを奮い立たせる。

 新年度が始まり、県内の小中学校や高校でも新学期がスタートした。県は小中学校や幼稚園など約1600カ所の校庭の放射線量の測定を実施した。

 県の担当者は5日から7日までの3日間、二人一組で1日20カ所ほどを回った。「新学期から安全な学校生活を送ってほしい」。災害対策など、他の業務で疲れがたまっているが子どもたちのことを思うと体が動いた。

 だが、県教委は各学校や施設の校庭を使用する判断には至っていない。「国が安全の基準を示してくれないことには何も始まらない」。県教育長の遠藤俊博は明確な判断基準を示さない国の動きを批判した。(文中敬称略)

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