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フクシマからの報告2(7)黙殺された抗議文 海への影響見通せず

相馬原釜漁港で手作業でがれきを撤去する漁協関係者=16日、相馬市

 相馬市の相馬原釜漁港で16日、相馬双葉漁協の関係者による本格的ながれきの撤去が始まった。大破した事務所や岸壁、柱だけになった市場...。東日本大震災から2カ月余りが経過した今も大津波の傷痕が残る。
 漁協は今月下旬をめどに市場機能の暫定復旧を目指す。しかし、東京電力福島第一原発事故は収束の兆しすら見えない。県漁連は魚の安全宣言が出るまでの操業自粛を決めている。「もしかしたら、もう漁ができなくなるんじゃないのか」。必死に前を向こうとする漁業関係者の胸中は複雑だ。
 海水から原子炉等規制法の基準を超える放射性物質が初めて検出されたのは1号機が爆発した10日後の3月22日だった。経済産業省原子力安全・保安院は魚介類が吸収する放射性物質について「直ちに健康に影響を与えるものではない」とした。漁業者は国を信じ、漁業再開への準備を進めていた。
 4月4日、東京電力からいわわき市の県漁連に1枚のファクスが送られてきた。「低レベルの放射性物質を含む水を海洋に放出することといたします」と書かれていた。「低レベルとはいえ、故意に流すのは納得できない」。専務理事の新妻芳弘からファクスを手渡された会長の野崎哲はすぐに放出の停止を求める抗議文を送り返した。その時、既に放出は始まっており、7日間にわたって1万トンにも上る汚染水が海に放出された。
 その間、調査のため捕獲したいわき市沖のコウナゴから食品衛生法で定めた暫定基準値を超える放射性セシウムが検出され、出荷制限がかかった。「他の魚は大丈夫なのか」。関係者の間に不安が広がった。その後も基準値内ながら、ヒラメやマコガレイ、ミズダコなどから放射性物質が出た。
 21日に東電会長の勝俣恒久からの電話が追い打ちをかけた。電話口の新妻に勝俣は告げた。「4月初旬に原発の立て坑の亀裂から流出した水に高濃度の放射性物質が含まれていた」。謝罪の言葉の後、一方的に電話は切れた。新妻は受話器を置くのも忘れ、ぼうぜんと立ちつくした。「魚に、海に影響は出ないのか。それだけ教えてほしい」
 例年であれば地元漁港で水揚げされたカツオなどの取引で連日、活況を呈するいわき市中央卸売市場。今年は場内から本県沖の水産物が姿を消した。水産物卸売業を営む小沼幸誠は売上帳簿を手に頭を抱えていた。3月、4月の売り上げは例年の5割程度に落ち込んでいた。地元漁港からの水揚げがないためだ。「早く元の海に戻してほしい」。漁業自粛の影響は卸売業や加工業にまで広がっている。
 東電は4月中旬以降、原発の海側を覆うように鉄板やフェンスを設置し、放射性物質の拡散防止に動きだした。放射性物質を吸着する鉱物「ゼオライト」も海中に投入した。それでも放射性物質は本県沖30キロにまで及び、封じ込めの難しさが浮き彫りになっている。
 「効果はあるのか」。県災害対策本部がある福島市の県自治会館で、詰め寄る報道陣の質問に東電社員は言葉を詰まらせた。「本店に問い合わせてみる」。政府の原子力災害対策本部は「放射性物質の測定調査で数値は下がってきており、東電の対策に一定の評価をしている」とし、追加の対策には消極的だ。
 東電と国の対応は漁業者の神経を逆なでしている。相馬双葉漁協組合長の南部房幸は「放射性物質が薄まるのを待つばかりで、打つ手はないのか」といら立ちを隠さない。いわき市漁協副組合長兼久之浜支所長の江川章は怒りに満ちた言葉で言い切った。「海に流した放射性物質の回収なんて、できっこない。東電は将来の漁業にまで、重いツケを回したんだ」(文中敬称略)

 =「フクシマからの報告2」はおわります=

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