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フクシマからの報告3(3)差別にあえぐ観光地 原発事故で大きな打撃

裏磐梯観光協会が入る北塩原村の事務所。放射線に関する観光客の問い合わせが連日、寄せられる

 「偏見、差別じゃないか」。郡山市・磐梯熱海温泉のホテル華の湯常務総支配人の菅野豊臣(37)は受話器を置くなり、声を荒らげた。県外の旅行業者からの予約問い合わせだった。「原発事故の被災者を受け入れているか」。双葉郡から約80人が避難していることを告げると、予約を入れず電話は切られた。
 「一般の宿泊客に快適に過ごしてもらえるよう万全の態勢で待っているのに」。東日本大震災、津波、福島第一原発事故。どん底から、はい上がろうとする被災県の思いが踏みにじられた気がした。
 ホテルは収容人数が900人近い。福島第一原発からの距離は約70キロ。県中央部に位置し、各種団体の会議などが度々開かれる。会津の観光地への玄関口として多くの観光客が訪れていた。原発事故以降は仮設住宅工事、復興・復旧事業の関係者らが宿泊し、一般客は1人もいない日が多い。観光客の問い合わせの電話では決まって、こう聞かれる。「放射線は大丈夫か」
 「健康に影響はありません。専門家もそう言っています」。いくら説明しても、原発事故のイメージを拭うのは容易でないことが、3カ月で身に染みて分かった。「震災以降のキャンセルは1700件、2万9000人分」。菅野は宿泊データに目を落とし、力なくつぶやいた。
 磐梯熱海温泉の宿泊客も訪れる北塩原村の裏磐梯は緑の木々に彩られ、本格的な観光シーズンを迎えようとしている。今年は桧原湖や五色沼の駐車場に団体旅行のバスは見られない。
 自然の楽園は、「3・11」以前、県外ナンバーの車があふれていた。高速道路の「休日1000円」の恩恵で、首都圏との「距離」は縮まった。「1000円効果もすっかりかすんだ」。裏磐梯観光協会事務局長の鈴木幸子(25)はため息をつく。釣り客、写真愛好家でにぎわっていたはずの窓外には、避難者が散歩する姿があった。5月の入り込み数は16万8000人で、昨年より20万人近く少なかった。
 国土交通省は20日から東北地方の高速道路を被災者ら限定で無料にし、休日の上限1000円を打ち切る。「全国各地に散らばった被災者を支援するため。震災対策の財源が必要になり、休日1000円は続けられない」。高速道路課の職員は苦汁の選択だったことを強調する。東北地方では一般車の無料化を夏にも始める方向で検討しているが、正式には決まっていない。
 北塩原村の放射線量は毎時0.18マイクロシーベルト程度。観光協会事務所には今も放射線の影響を心配する問い合わせが多く寄せられている。「1000円打ち切りはダブルパンチ」。鈴木は目前に迫った期限に焦る。「夏も人が来ないと原発事故の影響が深刻だと誤解されかねない。自然が売りの観光地に危険なイメージは致命的」。首都圏と本県観光地の「距離」は、確実に広がっている。
 「本県の知名度を上げるため努力を重ねてきたのに、こんな形で知れ渡るとは...」。県観光交流課主幹の石本仁は、県が計画する大型観光キャンペーンの企画書に目を落とし、無念の表情を浮かべた。
 従来の団体旅行に加え、裏磐梯や福島市の花見山、いわき市の海産物など地域の資源を旅行商品化することが盛り込まれていた。300件余の着地型観光を売り込む目玉事業は、震災と原発事故で「白紙」になった。
 県には被災地の復旧・復興に向けた、さまざまな課題がのしかかり、観光に目が向きにくい現状が浮かび上がる。観光再生を模索する石本は、その間にも観光業の衰退が進むことを何よりも恐れる。「人々の脳裏に刻まれた原発事故の恐怖を取り除くのは時間がかかる。本県の観光地に行楽客が戻る日は来るのだろうか」(文中敬称略)

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