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フクシマからの報告3(5)賠償基準 整わず 風評被害「線引き困難」

県の賠償請求相談窓口。連日、県民からの問い合わせが相次いでいる=15日午前

 「原発事故が起きて取引が激減した。損害賠償の手続をしたい」「製品価格の暴落は賠償の対象になるのか」。県が設けた東京電力福島第一原発事故の賠償請求相談窓口には連日、県民からの問い合わせが相次ぐ。
 原子力損害賠償紛争審査会は、製造業などの風評被害に関し、まだ賠償基準を示していない。窓口担当者は悩みや質問、要望をメモに取り、こう繰り返すしかなかった。「全ての風評被害が賠償対象に認められるよう、国に求めている」
 取引停止や受注減、価格の引き下げ、放射性物質が付着していないことを示す証明書の要求、県内車両の使用拒否...。大型のファイル3冊に及ぶ県の報告書には、さまざまな産業の風評被害が記されていた。「なぜ、県民がこれほどの苦痛を受けなければならないのか」。県原子力損害対策担当理事の鈴木正晃は眉間にしわを寄せた。
 「原発事故の影響を受けた企業の苦悩は痛いほど分かる。ただ、損害のどこまでを風評被害とするかの線引きは難しい」。審査会事務局を務める文部科学省の担当者は頭を抱える。
 審査会は5月、第二次指針でようやく観光業の予約キャンセル分を風評の賠償対象とした。原発事故後に予約を取り消された旅館やホテルの損害は風評被害として認めやすかったという。
 製造業や建設業、卸・小売業、サービス業、医療・福祉分野などの風評をどう捉えるかはこれからだ。相次ぐ余震、地震による物流の停滞、消費の落ち込みなど、企業の被害には、さまざまな要因が複雑に絡み合っている。さらに、県内の環境放射線量は毎時0.1マイクロシーベルト程度の会津地方から、毎時1マイクロシーベルトを超える福島、郡山、二本松の各市まで大きな開きがあり、取引停止などの損害賠償を全ての地域で同じに扱うべきか難しい判断となる。「審査会は風評被害の有無を判断することはできるが、損害全体の中で東電に賠償させる風評分を見極めるのは困難だ。全額賠償とするか、一部のみを償うのかは、最終的には原発事業者の東電が決めることになるだろう」と見通しを語る。
 東電幹部社員は風評による損害を国に示すよう求める。「さまざまな業種の損害のどの部分が風評に当たるのか明確にしてほしい」。第三者機関である審査会が賠償の基準を決めないと商工業者からの理解を得られないというのが理由だ。
 社員は避難所などで被災者への謝罪を繰り返し、県内商工業者に原発事故と東電への大きな怒りが渦巻いていることを感じている。「国が、国が、と頼りたくはないのだが...」
 被災から3カ月を過ぎても、県内商工業者の厳しい経営環境は一向に改善していない。県商工会連合会専務理事の阿久津文作の元には、取り引きを停止された企業の嘆きが届く。
 相手側の企業が、市場の縮小や経済動向などを契約解除の理由として挙げ、原発事故による風評被害の証明が難しくなるケースも出てきている。阿久津は県内約2万3600の事業者が名を連ねた会員名簿を手に思いを強くする。「県内企業は原発事故の影響で苦しんでいる。風評被害と認められず、賠償金が大幅に削られる企業があってはならない」
 原発事故は予断を許さない状況が続き、県内企業に降りかかる風評被害の終わりは見えない。時間の経過とともに原発事故との関連が薄れ、風評の認定がうやむやになることも懸念されている。(文中敬称略)
 =フクシマからの報告3はおわります=

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