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「廃業」脳裏よぎる 畜産農家悲痛な叫び

飼料の稲わらの前で畜産農家の先行きを心配する鈴木さん=17日、大玉村

 県内の肉用牛が19日にも出荷停止となる見通しとなり、県内の生産者に不安が広がっている。畜産農家の多くが収入を断たれることになり、「いつまでも持ちこたえられるか」とため息が漏れる。出荷停止が長引けば、これまで培ってきた「福島牛」のブランド力を失うことにもつながりかねない。消費者の信頼をつなぎとめる全頭検査の見通しも立たず、いら立ちは募るばかりだ。農家の苦悩を追った。
 「20歳のころから42年間、情熱を持って牛を育ててきた。それも、もう終わりかもしれない」。大玉村の肉牛農家の鈴木広直さん(62)は17日、自宅の牛舎にいる牛を悲壮な表情で見詰めた。
 稲わらは牛の反すうを促す作用があり、健康で肉質の良い牛を育てるのには欠かせない。原発事故発生前に仕入れ、その後は屋根付きの倉庫で保管してきた。放射性物質の混入は考えられない。「消費者の安心のため、全県での出荷停止が仕方がないのは理屈では分かる。でも...」。割り切れない思いが渦巻く。
 村内の稲作農家から牛の堆肥との交換で仕入れてきた。「今後は県外の業者から購入するしかない」と思案する。現在、飼育する約50頭の餌代は月に70~80万円。新たに稲わらを購入するとなれば、年間300万円近く増える計算だ。出荷停止が長引けば、さらに餌代がかさむ。
 肉牛の出荷価格は原発事故以降、風評被害で3~4割落ち込んでいる。そこに「出荷停止」というレッテルが加われば、どんな影響が出るのか。考えただけで気持ちが暗くなる。「廃業」という言葉が頭にちらつく。
   ◇    ◇
 会津地方の30代の肉牛農家男性は16日、約40頭を飼う自宅の牛舎で、県の検査担当者が稲わらを運び出すのを心配そうに見守った。原発事故以降に田んぼに一部残っていた稲わらを取り入れ、保管していた分で、結果を待っている。「セシウムが検出されなければいいが...」と祈るような気持ちだ。
 会津地方では畜産農家が一丸となって「会津牛」のブランド化に力を入れ、男性も経営が軌道に乗り始めていた。だが、原発事故で会津牛も価格が3~5割も下落している。会津地方でもわらの汚染問題が起き、事態はより深刻になった。
 「肉牛は出荷時期に合わせて計画的に肥育している。出荷停止が続けば、肥育が難しくなる」と行政の対応にいら立ちを隠せない。「収入がない中、肥育がうまくいかず、牛が死んでしまえば、それまで掛けた費用が全て無駄になる」
   ◇    ◇
 繁殖農家も子牛が出荷停止になるかどうかに神経をとがらせる。郡山市で繁殖牛8頭を飼う農家男性(66)は「県内で生まれた子牛は買ってもらえるのか。売値は限りなく下がるのではないか」と不安を募らせる。
 5年程前にトラクターを購入するなどして、年間約200万円を返済している。収入減は大きな打撃だ。肉用牛が出荷制限になれば、母牛を最終的に肉用に売ることもできず、年間約40万円の減収にもなる。
 「福島の牛に対する消費者の信頼は失われてしまった。安心して買ってもらえる環境を一刻も早く整えてほしい」。畜産農家からは全頭検査を求める声が高まっている。

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