東日本大震災

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今を生きる 揺れる母親たち(29) つかの間の「安心」

後藤さんは子どもの体を冷やすため、市販の水を凍らせて学校に持たせた

 「これで少しは気持ちが落ち着く」。福島市の主婦後藤春菜さん(39)=仮名=は、終業式を終えて帰宅した子どもを迎え、ひと息ついた。21日からようやく夏休みが始まる。子どもと一緒に待ち続けた長い日々を思い返した。

 「教室はあんなに暑苦しいのに...」。市役所に入った瞬間、あまりの涼しさに足が止まった。「子どもたちがどんな思いで授業を受けているのか、知っているのだろうか」
 その日、小学4年の長男、2年の長女、1年の次男が通う学校の授業参観に出掛けた。真夏日だというのに窓は放射線対策で閉め切られていた。どの子も額に汗をにじませ、頰は紅潮していた。2台の扇風機から生ぬるい風が吹いていた。
 教壇に立つ先生もつらそうだった。「このままではみんな熱中症になってしまう」。いても立ってもいられず、夕方、市役所に駆け込んだ。
 担当者にエアコンを取り付けてほしいとお願いした。しかし、難しいとの返事だった。急に予算は確保できない事情は理解した。「せめて扇風機を増やしてほしい」と訴え、引き返すしかなかった。「そんなに無理な要望なのだろうか...」。市役所を出る時、悲しくなった。
 「授業中、首に当てるだけでも楽になるから」と子どもには毎日、水を入れ、かちかちに凍らせたペットボトルを持たせた。子どもたちは帰宅するとすぐに横になり、夕飯までぐったりと眠ることが多かった。
 次男はアトピーの症状が悪化した。手のひらや足が特にひどい。かかりつけの皮膚科医は、汗だけでなくストレスも原因ではないかと言った。夜は氷枕をして寝かせている。エアコンも使っているが、体が冷え過ぎないよう温度を高めにしている。
 子どもたちは何も言わずに我慢してきた。夏休みは親子で県内外の宿泊施設を巡り、外で思いきり遊ばせるつもりだ。

 周りには夏休み中に県外に引っ越す家族もいる。以前のような暮らしがそう簡単に取り戻せるとは思わない。
 「安全がまだ先なら、どんなに小さくてもいいから、今は安心が欲しい。少しでも学校の環境を良くしたいという保護者の願いがかなえば、2学期を待つ気になれる」。何度も寝返りを打つ子どもを見てつぶやいた。

カテゴリー:連載・今を生きる

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