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今を生きる 揺れる母親たち(30) ここで産み、育てる

長男が触れるおなかの中で新しい命がすくすくと育つ

 一回り大きくなったおなかの中で、新しい命がすくすくと育っている。妊娠15週目。「トントンと、もうすぐたたいてくれるかな」。須賀川市の主婦渡辺美紀さん(30)=仮名=は、そっとおなかに手を当てた。

 2歳の長男と2つ違いの子どもを欲しいと願っていた。長男を産むまでは、なかなか子宝に恵まれなかった。「早く2人目が欲しいね」と、いつも夫と話していた。
 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に大きな衝撃を受けた。あまりの惨状に将来への不安が募り、「もう子どもはできないかも」と一時はあきらめた。
 5月下旬、妊娠の兆候を感じた。「もしかすると...」。わずかな期待を抱き、市販の検査薬で調べると、陽性だった。思わず声を上げ、隣りにいた長男の手をぐっと握った。
 しばらくすると、心配になった。妊娠が分かるまで県産野菜を多く食べていた。風評被害に苦しむ農家の人たちを応援したいと思ったからだ。放射線量が平常より高くても、それほど気にせず外出もした。
 大丈夫と頭の中では理解しても、動揺を抑えられなかった。「何か胎児に悪い影響を与えるようなことをしただろうか」。行動を細かくたどろうとしても、思い出せない。
 子どもや胎児の身を案じ、県内から離れる女性がいると聞いている。放射線への不安は確かにある。
 それでも、環境の整っていない避難先で出産した母親の姿を新聞やテレビで目にするたびに強い思いが込み上げた。「あんなに苦しい生活の中でも、命を育んでいる。自分もここで産み、育てていきたい」
 4週間に1回、須賀川市の病院で検査を受けている。胎児は7センチほどになった。経過は順調だ。

 この命は、震災を乗り越え、宿ったように感じることがある。年明けの予定日を前に「強く生き、誰かを助けられるような人になってほしい」と今から願う。生まれてくる子には、未来を照らす希望に満ちた名前を付けようと思っている。
 =「揺れる母親たち」はおわります=

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