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絆探して(21) 農業信じ前を向く 葛尾村民、三春で帰宅に備え

仮設住宅近くの休耕地を整備する葛尾村民。土に触れる喜びをかみしめる=三春町

 「元の生活に近い場所」「村に戻る準備ができる所」。警戒区域と計画的避難区域に指定されている葛尾村が、村民約1500人の帰還に備えて選んだ場所は、同じ阿武隈山系の三春町だった。
 町内の9カ所に仮設住宅440戸を建設した。今月11日には村役場の機能を会津坂下町から三春町・さくら湖自然観察ステーションと町運動公園管理棟の2カ所に移した。立ち入りが制限されている村の中心部から約30キロ、車で約40分の距離だ。
 最終的には村民約900人が仮設住宅に入居する予定で、郡山、田村両市などに避難している村民と合わせると、村民の9割を超える1400人弱が三春町内とその周辺に集まる。

■土の感触「いいねぇ」
 農業をテーマに村づくりを進めている「村いきいき交流促進協議会」の会長、中村健彦さん(66)は入居している仮設住宅近くの休耕地を借り、会員の農家と一緒に野菜作りに励んでいる。今月上旬、畑を手入れした。夏の日差しが照りつける中で、久しぶりに土の感触とにおいを感じた。「やっぱり農業はいいねぇ」。会員は笑顔で声をそろえ、緑豊かな山々に囲まれた村の風景を思い出した。
 中村さんは長年、勤めた全国漁業協同組合連合会を退職後、平成18年に千葉県柏市から村に移り住んだ。農業を営む傍ら、村内の農家と共に協議会を発足させた。会員40人と福島市などで「葛尾の高原野菜」をPRし、昨年10月には郡山市に念願のアンテナショップを開設した。常連客ができ、軌道に乗り始めていた時、原発事故が発生した。

■村に戻って一から
 先月末、柳津町から三春町の仮設住宅に移った根岸フミ子さん(71)が作る野菜は、アンテナショップで一番の人気を集めていた。今は、仮設住宅の近くに中村さんが用意した畑の草を刈り、耕している。避難している間は、生産・販売よりも、健康や生きがいづくり、耕作技術の維持が主な狙いだ。「自分の畑をぶん投げて、他の畑を耕すなんて...。農家にとって、こんな悲しいことはない。でも、自分には農業しかないし、体がなまっちゃうから。絶対に村に戻って一から始めたいね」。複雑な気持ちを抱えながらも前を向くことを忘れない。
 村民は三春町内の仮設住宅に行政区ごとに入居している。最も多い132戸がある貝山地区の仮設住宅でも、住民が自主的に農業に取り組んでいる。
 村民は古里に戻る日を夢見ながら、村の基幹産業である農業の力を信じ、絆を守ろうとしている。

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