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今を生きる 鎮魂の夏(32) 家族写真 生の証し

写真を見ながら幸せだった日々を思う木村さんと舞雪さん

 北アルプスの麓にある長野県白馬村は何もなかったかのようにゆっくりと時間が過ぎる。「本当に逝ってしまったのか」。避難生活を送る大熊町の木村紀夫さん(46)は東日本大震災の津波で亡くした妻深雪(みゆき)さん(37)と父王太朗(わたろう)さん(77)、行方不明の次女汐凪(ゆうな)さん(7つ)の写真に目を落とし、やり場のない思いを口にした。
 家は津波で流された。地元は東京電力福島第一原発事故で警戒区域になっている。帰る場所がなく、お盆は写真をただ見詰め、3人をしのぶしかなかった。
 熊町小の1年生だった次女は明るく活発で、学校でも人気者だった。料理が上手だった妻の影響からか、将来はパティシエになることを夢見ていた。
 岡山県出身の妻は人付き合いがうまく、すぐに地元に解け込み、PTA活動にも熱心に取り組んだ。父は温厚な人柄で、孫の成長を目を細めながら見守っていた。
 思い返すたびに悔しくなる。あの日、福島第一原発から3キロほど離れた自宅に父と母巴さん(72)がいた。次女は放課後、学校近くの児童館に向かった。
 長女の舞雪(まゆ)さん(10)は小学校にいて助かり、母も無事だったが、父、妻、次女の行方が分からなくなった。放射線の危険から逃れるため、長女と母を岡山県内の妻の実家に預けた後、各地の避難所を捜した。
 2カ月後、父と妻の死亡が確認された。父が児童館に次女を迎えに行き、津波に巻き込まれたことを知った。大熊町内の職場にいた妻は児童館に向かい、次女がいないことを確認して自宅に向かったらしい。なぜすぐに逃げなかったのか。やりきれない思いが今も募る。
 入学式、運動会、旅行...。がれきの中から見つかったスナップ写真は家族のあふれる笑顔を写し出す。「とっても楽しかったね」。長女は1枚1枚に刻まれた思い出をかみしめる。
 次女が見つかるまで区切りはつかない。「原発事故さえなければ、今すぐにでも戻って見つけてあげたい」。そうできない現実が胸を締め付ける。
 長女は夏休みを長野で過ごし、岡山に戻る。再び離れ離れになる。「家族が一緒に生きた証しに」と、近く写真集を出す。心の中で家族がずっと一緒であり続ける支えになる。

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