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【県内地価・下落率過去最大】価値下がり、復興に足かせ 企業の資金調達懸念

地価の下落率が大きかった郡山市中心部の商業地。震災で被害を受けたビルの修繕などが進む中、復興への影響が懸念される

 県内の地価に及ぼす東日本大震災や東京電力福島第一原発事故の影響が初めて明らかになった20日、震災後の経営立て直しを目指す事業者らから地価の大幅下落で資産が減り、資金調達が難しくなることへの懸念の声が上がった。一方で、固定資産税が減額になったり、宅地を購入しやすくなったりすることへの期待感も。ただ、県内経済や県民生活が地価下落に今後、どう左右されるかは不透明で、専門家は悪影響を及ぼさない対策の必要性を指摘する。

■担保価値

 ビルの修繕や解体など震災からの復旧作業が進む郡山市中心部。一方で放射線問題を受け、県外資本の飲食店や事務所の閉鎖、一時休業などが増えている。

 商業地の地価下落が浮き彫りになった中心部で老舗眼鏡店を営む斎藤知二社長(64)は「土地の担保価値が目減りし、今後の資金調達の足かせになりかねない」と不安視する。

 市商店街連合会長としてさまざまな中心市街地活性化対策も推し進めてきた。資金調達に支障が出て企業の投資が鈍れば、復興に向けた取り組みにブレーキがかかるとも案じる。

 震災で大きな被害が出た矢吹町のJR矢吹駅周辺や4号国道沿線の商業地も大幅に下がった。「メーン通りまで通行止めになり、商店街の沈滞に拍車をかけた。やむなく廃業した仲間も多い」。老舗洋品店を経営する手島光さん(62)は一斉にダウンした土地の価格に震災や原発事故に苦しむ商業者の厳しい現実を重ねる。

 県内の金融機関の関係者は「従来より下落幅が大きく、経済に悪影響を与えるのでは」と懸念する。担保の評価額が下がることにより、追加担保を求められた場合、「財務体質の弱い会社はさらに悪化する恐れがある」と指摘する。融資については金融機関は従来より消極的にならざるを得ないとみている。

■風評の余波

 商業地で全国一の下落率を記録した郡山市熱海町にある磐梯熱海温泉は、原発事故の風評被害で県外の観光客がほとんどいない。市内で会議やイベントなどの開催もめっきり減り、来訪者は激減している。こうした厳しい現状が土地の評価に直結した形だ。

 温泉地を挙げて風評被害対策に全力を挙げてきた中、旅館守田屋の医王田晋社長(56)は「旅館は常に設備投資してリニューアルしなければ客足を維持できない。融資を受けられなくなれば死活問題になる」と危機感を募らせる。

 会津若松市の東山温泉では震災直後に宿泊者が前年の2割まで落ち込んだが、8月には9割まで回復した。それでも同温泉地は10%以上も下がり、市内の平均よりも下落幅が大きい。東山温泉観光協会の川添修也会長(53)は「震災の直接的な被害はなかったので予想外だ。風評被害による実害の一つ」と憤りをあらわにした。

「税軽減」に期待の声 行政、金融機関 融資環境の整備を

■プラス効果

 「企業、個人が土地を購入しやすくなるのは確かだ」。全国宅地建物取引業協会連合会常任相談役で不動産業を営む福島市の藤田勝太郎さん(70)は地価下落のプラス効果を指摘する。

 分譲マンションなどは、すでに価格が下がった物件の売買実績が伸び始めている。「県内は持ち家志向の人が多い。原発事故が収束すれば土地売買が加速することも期待できる。企業の投資も誘発する」と分析する。

 土地の評価は固定資産税額にも結び付き、税負担が軽くなることへの期待の声もある。不動産鑑定士によると、一定の調整は入るものの固定資産税はおおむね地価の下落率と同じ割合で引き下げられるという。

 住宅地の地価が大きく下がった鏡石町は、震災から半年がたった今も地滑りや道路の陥没があちこちに目立つ住宅地が残る。食品店を20年以上営業する男性(62)は震災の傷痕が生々しい敷地を見詰めながら「固定資産税など税金が安くなるのがせめてもの救い」と話す。

■救済策を

 福島大経済経営学類の飯島充男教授(農業・土地問題)は、企業が金融機関から融資を受けにくくなる状況を防ぐための救済策の必要性を指摘する。地域経済が復興しなければ地価下落には歯止めはかからないとみて、企業が復旧のために借り入れしやすいように「行政が利子補給をしたり、金融機関が担保価値以外の部分を重視して融資を決めるなどの対応を進めるべき」と提言する。

 県中小企業家同友会の増子勉専務理事も企業の再興が本県の復興の一端を担っているとし「担保価値が低下したとしても金融機関は追加担保を企業に要求すべきではない」と配慮を求めた。

取引は皆無状態 地価調査対象外の避難区域

 不動産関係者らによると、今回の地価調査の対象外となった避難区域は土地取引がほとんどない状態が続いているとみられる。

 緊急時避難準備区域の南相馬市原町区の不動産業者は区域内の物件を扱っているが、「震災後の土地取引は皆無に近い」と話す。

 震災前は若い世代を中心に1カ月間に2、3組から土地や中古住宅購入の相談があったが、現在はほぼゼロ。避難などを理由に住宅や土地の売却を検討する住民もいるが、売買が成立した話は聞いたことがないという。「放射線の問題が解決されない限り、現状は打開されない。いつまでここで商売できるのだろうか」と表情を曇らせた。

 原町区の避難所で暮らす無職男性(54)は立ち入りが制限されている警戒区域の小高区に自宅や農地を所有している。「固定資産税は免除されているが、足を踏み入れることもできない土地に税金がかからないのは当たり前だ。戻れる日が来たとしても、実際に住むことができるかどうかは分からない。国や東京電力に買い取ってほしい」と訴えた。

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