東日本大震災

「3.11大震災・断面」アーカイブ

  • Check

【原発事故賠償3】事故か、地震・津波か 区別困難、全て対象に

郡山市の工場を間借りして操業を続ける江井鋳造所。原発事故と地震・津波の損害の線引きに困惑している

 損害の原因は原発事故か、地震・津波か-東京電力福島第一原発事故の賠償をめぐり、線引きの難しさは被災者を悩ませる。自治体の避難指示の有無によっても支払い対象が分かれる。

■線引き

 東電は原発事故による損害であることを賠償の条件とする。

 「避難したので工場に戻れず、建物の修理ができない。機械も傷む一方で、今更(損害の)原因を区別できない」。郡山市で知人の工場を間借りし事業を続ける江井鋳造所の江井敬彦管理部長(56)は困惑する。

 工場は警戒区域の南相馬市小高区にあり、主にモーター関連部品を生産していた。津波は免れたが、地震で屋根が壊れた。雨漏れし、1億円以上を投資して完成させた高周波溶解炉などの設備がさびて動かなくなっている可能性がある。許可なしの立ち入りは禁じられており、現状を確認することさえできない。従業員も県内外に避難せざるを得なかった。5人減り、郡山では9人でやり繰りする。

 避難先での事業継続のため借り入れを余儀なくされた。賠償されないと経営は苦しい。

■不公平感

 避難区域外だったという理由で対象にならなかった県民からは不満の声が上がっている。福島市内で比較的、線量が高い渡利地区に住む運転手関根太一さん(64)も「県民全員が同じように放射線への不安を抱えているのに...」と納得できない表情を浮かべた。

 東電は南相馬市民全員を対象とした。市が原発事故直後、全市民に退避を呼び掛けたことを理由に挙げる。警戒区域などの避難区域の外に約1万2000人いたが、約7万1000人の市民全員を対象に含めた。

 一方、約4万1700人の市民がいた田村市は賠償の対象になった区域と、ならない区域に分かれた。全市民に避難の呼び掛けがなかったためだ。市内の警戒区域には約460人が住んでいた。同じ警戒区域を抱えるにもかかわらず、支払いに差が出る。

 問題となっていた自主避難者について、賠償指針を審議する文部科学省原子力損害賠償紛争審査会は21日、対象とすることで合意した。だが、支払いの時期や期間、金額は依然、不透明だ。

 三瓶利広さん(39)は家族2人を連れて、田村市船引町から山梨県北杜市に自主避難した。経営する鉄工所に戻れる見通しはない。「(自主避難への)賠償もまだ具体的になっていない。古里に戻る計画も立てられない」とため息をつく。

 県の鈴木正晃原子力損害対策担当理事は「全県民への賠償を求める立場は変わらない」と力を込める。

【背景】

 東京電力は8月25日、東京電力福島第一原発事故で避難した住民に支払う「追加仮払補償金」の対象に南相馬市の原発から半径30キロ圏外の市北部の住民を含めると発表した。1人当たり最大30万円で、南相馬市全域が賠償対象となった。8月5日に文部科学省原子力損害賠償紛争審査会がまとめた中間指針で賠償範囲に含められたことに対応した。対象は約1万2000人とみられ、総額は最大36億円に上る。


観光業つぶす気か 減額 納得できぬ

 東京電力は法人、個人事業主向け算定基準で観光業の風評被害の減収分のうち20%を対象外とした。卸売業者らへの賠償の中身はいまだ示されない。「観光業をつぶす気か」。東電の厳しい対応に悲鳴が上がる。

■20%減

 東電は阪神大震災などの前例を基に、前年と比べた観光業の売上高の減少分のうち、東日本大震災の景気低迷による損害を本県と他県で一律20%とした。この分は原発事故が原因ではない、という訳だ。鶴ケ城そばでレストランや売店を構える会津若松市の鶴ケ城会館の菅井俊雄総支配人(59)は「他県と同じなんて納得できない。3月以外の減収はほとんど風評被害だ」と語気を強める。

 土産物販売店などに商品を卸す新栄食品の渋川善彦社長(55)は「対象になるのかさえ分からない」と頭を抱える。同社は福島第一原発事故後、9月までの売り上げが前年同期と比べ七割も減った。

 今月中旬に喜多方プラザで開かれた損害賠償説明会。「卸売業者は対象なのか」。肝心な点は説明に立った弁護士も明確にできなかった。「東電は『欲しかったら請求しろ』という姿勢だ」。渋川社長は声を震わせる。

 同社の卸した商品などを販売する「とらぞう」の佐原正純営業課長(38)も「取引先の経営が安定しないと困る」と話し、対象を幅広く捉えるよう求める。観光業の裾野の広さを救う賠償となっていないのが現実だ。

■妥当性

 「原発事故と自然災害の地震と津波を並べて論じるのは妥当なのか」。疑問を投げ掛ける法曹関係者もいる。

 交通事故でけがをした被害者が搬送先の病院の手術ミスで死亡したような場合、民事訴訟は「原因競合」の考え方を取り入れる。複数の加害者の過失がどのように関与したか分析した上で区分して影響分の損害賠償を請求し、他の競合分を減額する。

 しかし、判例では法人格と自然現象が競合して損害を与えた場合、「原因競合に基づく減額は認められない」との見解が示されている。昭和43年8月に岐阜県白川町の国道で発生し乗客百四人が死亡した「飛騨川バス転落事故」で遺族会が起こした国家賠償訴訟では、国道の管理責任と自然力の原因競合が問題となった。48年3月の一審名古屋地裁判決では原因競合を理由に認めたが、49年11月の名古屋高裁判決では一審判決を取り消す判断を下している。

 東電が示した算定基準について「判例を無視し自然現象の大震災に賠償の一部を負えと言っているようなもの」と指摘する弁護士もいる。

【背景】
 東京電力は21日、福島、茨城、栃木、群馬4県の観光業の風評被害は福島第一原発事故だけでなく東日本大震災の影響もあるとして、前年と比べた売上高の減少分(減収率)のうち20%分は対象外とした。阪神淡路大震災と東日本大震災のデータに基づき、地震や津波による減収率20%を算出した。観光業の風評被害について東電が示したモデルによると、震災から半年の売上高が220万円で、前年同期の500万円から56%減収となった場合、500万円に宿泊業の平均的な利益率である60%をかけた300万円を利益と想定。これを損害賠償の基礎額とし、56%から20%分を差し引いた36%をかけ、賠償金額は108万円となる。

カテゴリー:3.11大震災・断面

「3.11大震災・断面」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧