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【原発事故賠償4】最終責任誰が 法律あいまい

 原子力事故の損害賠償は原子力損害賠償法(原賠法)に基づいて支払われる。同法は原子力事業者の「無過失責任」「責任の集中」「無限責任」を定める。一見、事業者に厳しい内容だが、福島第一原発事故では東京電力1社だけで対応しきれない現実を浮き彫りにした。国策で原子力発電を進めた政府の法的責任も明らかでない。一体、誰が最終的な責任を取るのか。

■政府の援助

 「無過失責任」は故意、過失がなくても原子力事業者が賠償責任を負うことを意味する。「無限責任」は被害者保護の観点から賠償責任を無限とする。「責任の集中」は事業者のみが責任を負い、発電機などの製造者は責任を取らない。

 同法は1万キロワットを超える原発1事業所当たりの賠償措置額を1200億円とする。ところが、福島第一原発事故の損害に対し、東電は既に仮払いだけで約1263億円(21日集計)を支出した。

 また、賠償金額が1200億円を超えた場合、政府は国会の議決を経て「必要な援助」を行うと規定している。だが、具体的内容は明文化しておらず、国の法的な責任の有無や内容も示していない。

 今回の原発事故を受け、東電の賠償を支えるため原子力損害賠償支援機構法が8月に成立した。第2条に「国の社会的責任」とある。「『社会的責任』とは『道義的責任』の意味なのか。『法的責任』についてはどう考えるべきなのか」と、あいまいさを指摘する法曹関係者もいる。

 被災者の中には、原発推進を国策としてきた政府の責任を問うため国家賠償法に基づく訴訟を起こすケースも想定されるという。この関係者は、政府の法的責任が明記されていないことから、被災者にとって不利に解釈されかねないという危惧を抱く。

■補償と賠償

 東電は「補償」といい、「賠償」という言葉を使っていない。被災者への資料などは全て補償。請求書の記入方法などを説明する施設の名称は「補償相談センター」だ。

 有斐閣法律用語辞典によると、通常、「補償」は適法行為によって生じた損害を指す。

 田村市都路町の警戒区域に住んでいた飲食店経営渡辺辰二さん(56)は原発事故で市内船引町へ避難を余儀なくされ、レストランも閉店したままだ。「補償という言葉は言外に『自分たちには落ち度がない』という東電の考えが如実に表れている」と怒りをあらわにする。

相談窓口の周知課題 県弁護士会知恵絞る

 相談先が分からず途方に暮れている被災者がもっといるはずだ−。県弁護士会は懸念する。会員弁護士を訪れる東京電力福島第一原発事故の被災者が、まだ少ないからだ。相談窓口をどう知らせるかが課題となっている。

■倍増したが

 県弁護士会は今月、原子力発電所事故被害者救済支援センターを設け、被災者に最寄りの弁護士を紹介している。所属弁護士の8割を超える122人が登録し、万全の態勢で臨む。ところが、26日現在の相談件数は158件で、1日十件に満たない。

 25日付福島民報などに、無料相談の電話番号を紹介する全面広告を載せた。翌26日は、それまでの二倍以上に当たる約20件の相談があった。

 県弁護士会の担当者は「相談窓口を知らせようと各地の仮設住宅にチラシを置くなどしているのだが...」と話す。知恵を絞る日々だ。

 文部科学省原子力損害賠償紛争審査会は東京と郡山市に原子力損害賠償紛争解決センターを開いた。東電との交渉が決裂し、和解、仲介をセンターに求める被災者が今後、多数出てくると予想する。=「原発事故賠償」の回は終わります

【背景】
 原子力損害賠償法は被災者の保護などを目的として昭和36年に成立した。原発事故により損害が生じた場合は原子力事業者のみが責任を負うとする「無限責任」と「無過失責任」を定めているが、原子力事業者の負担能力を超えた場合は政府が援助をすることも明記されている。また、第3条1項には原発事故が異常に巨大な天災地変、社会的動乱によって生じた場合は原子力事業者が損害賠償の責任を負わないとする免責事由があるが、東京電力福島第一原発事故では適用されていない。

政府の法解釈、運用に問題
  原子力損害賠償に精通 中所克博弁護士(東京)に聞く

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 原子力損害賠償に詳しい中所克博弁護士(東京)は福島民報社のインタビューに応じた。原子力損害賠償法(原賠法)の限界、東京電力と政府の問題解決への取り組みの不十分さを指摘。「血の通った賠償」を求めた。

 −被災者への賠償が迅速に進まない。原賠法に問題があるのか。

 「法律は原子力事業者が賠償しきれない場合、政府が国会の議決を得た上で『必要な援助』をする、とある。政府にも一定の責任があることを意味するが、現状は政府が責任を取ろうとしていない。法の解釈、運用に問題があり、法が定めたことを実行していない。天井知らずの賠償に対し、抑制的な行動を取っているように見える」

 −文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会がまとめた「中間指針」が持つ意味は。

 「指針は原賠法に明示され法的根拠がある。極めて重い意味を持つ。被害が拡大し、全容が明らかでない現段階で、中間とはいえ出したのは時期尚早だったかもしれない。柔軟性を持った『仮払い参考基準』のようなものを作成し、賠償を迅速に進めながら汚染度などの実態に沿って内容を変化させ拡充していく方法もあった。東電は指針が暫定的であるとの点を無視し、中間指針に明示されない対象には賠償しない姿勢さえ見せている」

 −被災の現状を十分反映しているのか。

 「内容は不十分だ。例えば、委員自身が被災地を調査していないし、実施した専門委員の調査成果も指針に反映されているとは言い難い。議事録を読むと、避難などによる精神的損害が9月分から半額になる点も議論された形跡がない。官僚の脚本を認証するだけに見える。被災者の生活に関わる大きな問題であるにもかかわらずだ」

 −被災者と東電の賠償手続きが解決しない場合、文科省が設けた原子力損害賠償紛争解決センターが解決に当たることになる。

 「文科省の『センターの手引き』によると、中間指針を基準に紛争解決を図る、とされている。だが、中間指針に基づいて東電が作った算定基準に納得しないから紛争が起きるのではないか。それなのにセンターが中間指針の枠内でしか物事を考えないというのなら、センターに対する信頼を裏切られる被災者が大勢出てくるのではないか。センターは、指針に沿った賠償では納得できない、指針を見直してほしい、指針を超えた賠償を求めたい、そうした被災者の期待に応えるべきだ。このままでは、裁判までしたくないが現状は我慢できないという被災者の救済が漏れ落ちてしまう」

●略歴●
 なかじょ・かつひろ 松山市出身。中央大法学部卒。平成4年、弁護士登録(第二東京弁護士会)。最高裁司法研修所民事弁護担当教官。11年の茨城県東海村のJCO臨界事故で、科学技術庁(当時)が設けた原子力損害調査研究会委員として賠償範囲の基準づくりに参加。48歳。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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