東日本大震災

「3.11大震災・断面」アーカイブ

  • Check

【原発事故賠償2】見えぬ総額、募る心労 算定基準に不満、疑問 

 東京電力が示した福島第一原発事故の賠償金額と算定基準は被災者にとって厳しい内容となっている。10月から支払う本賠償はこれまでの仮払い分を差し引かれ、精神的損害は9月分以降半額となる。手元にどの程度の金額が残るのか。長期化する避難生活で苦痛は増し続けるのに、なぜ半額なのか−。関係者は割り切れない思いを募らせ、改善を強く訴える。

■生活できない

 「食べていくのがやっとだ」。浪江町から福島市野田町の借り上げ住宅に避難している高野仁久さん(49)は、東電から届いた賠償資料を手にため息をつく。

 浪江町では看板業を営み、町内を中心に浜通りの企業や個人から受注を増やし、不況の中でも順調に業績を伸ばしてきた。家族六人分として支払われた280万円の仮払いは既に底を突き、預金を切り崩して生活している。妻(42)と小学生の長男(10)、次男(9つ)、長女(8つ)の4人はさいたま市、父(79)は東京の旅館に身を寄せている。家族が3カ所に分かれた三重生活が家計に重くのしかかる。

 それでも「福島にいないと賠償や仕事の情報を得られない。双葉郡内の友人、知人らとのつながりが切れてしまう不安もある」と一人暮らしに耐える。

 仮払いは、一世帯に対する100万円に家族6人分の180万円を加えてはじき出された。本賠償の金額が決まらないため、看板業を再開するか、他の仕事に就くか、今後のことを決めかねている。

 「本賠償から仮払いを引かれたらどれだけ残るのか。看板業を再開するだけの金額を支払ってほしい」。仕事や家族の将来を考えると、怒りが込み上げる。

■矛盾

 三春町に役場機能を置く葛尾村。松本允秀村長は「仮設住宅に入ったからといって、避難者のストレスが減るわけではない」と、精神的損害の算定方法に疑問を投げ掛ける。

 賠償金額は事故発生日から8月分までを月額一人10万円、体育館など生活環境が過酷な場所への避難者は12万円とする。9月分以降は避難場所を問わず半分の5万円とした。

 松本村長も三春町の仮設住宅で暮らしている。「避難生活の最大のストレス要因は先を見通せないことへの不安。そうした状態が改善しない限り、心労は時間とともに増す」と多くの避難者の思いを代弁する。

 生活再建への見通しが立たず、精神的に不安になる人がこれからも増える−いわき市医師会副会長を務めるストレスクリニックの松崎博光院長(61)は予想する。県社会福祉協議会の担当者も「仮設住宅に一人でいる時間が長くなれば、精神的に参ってしまう高齢者が出てくる」と懸念する。

ローン組めない 警戒区域遅れる財産評価

 東京電力は警戒区域内の家屋や土地などの財産価値の喪失・減少に対する具体的な賠償内容を明らかにしていない。区域が解除されず、損害状況を調査できないとの理由からだ。不動産を担保に融資を受け、事業継続を願う自営業者らは頭を抱える。三カ月ごとの支払いにも「遅過ぎる」と反発する声が上がっている。

■自立したい

 浪江町から福島市岡部に避難している三浦一男さん(64)は県内の地価調査結果が載った21日付の朝刊を手に、評価対象にならなかった警戒区域内の土地に思いをはせた。

 浪江町や富岡町などで冠婚葬祭施設を営んでいた。現在は福島市の中古住宅に住む。土地を担保に銀行で融資を受けようとしたが担保として認められず、住宅ローンを組むことができなかった。購入費の支払いに頭を悩ます。

 警戒区域内の土地や家屋、車など財産の損害は中間指針で東電が賠償すべき項目に示された。しかし、東電は区域内の財産状況が確認できないとして、現段階で算定基準などを示していない。

 三浦さんは福島市で21日に開かれた法人と個人事業主に対する本賠償説明会に出席し、訴えた。「戻ることができないなら、資産に見合った賠償をしてほしい。それが事故を起こした事業者の責任じゃないか。事故から半年以上が経過し、いつまでも避難者ではなく自立したい」。会場から賛同の拍手が湧き起こった。

 東電担当者は「現段階で、区域内の財産を把握する具体的な方策がない。本賠償の期間を区切りながら、一つ一つお返ししていくしかない」と理解を求めたが、会場の不満は解消されなかった。

■待てない

 「これ以上待てない。限界だ」。いわき市・小名浜水産加工業協同組合の小野利仁組合長(54)は窮状を明かす。

 賠償の支払いは三カ月ごとだ。「毎月支払いがないと、原材料を仕入れることができず、倒産してしまう水産加工業者が出てくる」と危惧する。

 いわき市はサンマみりん干しの名産地。天日干しするとうま味が増すが、放射線の影響を恐れて室内で干す業者がほとんどだ。地元に水揚げされないため、遠方で買い付け魚を運んで来る。輸送費など経費はかさむ。

 県漁業協同組合連合会は原発事故後、放射性物質の影響から操業を自粛している。22日には10月の操業も見送った。

 余波は加工業者にも及ぶ。震災後、浜通りの水産加工に携わる168社は県水産加工業連合会をつくった。このうち118社の3〜5月の損害として15億8714万円の仮払いを東電に請求したが、7月30日時点で加工業者への「間接被害」は対象とされておらず、仮払いを受けられなかった。

 8月に示された中間指針にようやく間接被害が含められた。県水産課は「漁の自粛は、水産加工業者や仲買人の経営に深刻な影響を与えている。地場産業の崩壊につながらないよう県として支援策を検討していきたい」としている。

【背景】
 東京電力福島第一原発事故の被災者への本賠償の対象期間は【図】の通り。東電は初回の賠償金支払いを事故発生日の3月11日から8月31日までの損害を対象とした。支払いは個人、法人・個人事業主ともに10月を目指している。次回の受け付けは9月1日から11月30日まで、次々回は12月1日から来年2月29日までを対象とし、3カ月ごとに支払う。現段階で対象期間の終期は示されていない。

カテゴリー:3.11大震災・断面

「3.11大震災・断面」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧