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【津波被災地域の復興】高台移転か現在地か 住民と行政にずれ

津波で甚大な被害を受けたいわき市平薄磯で復興へ向けた活動を続ける志賀区長(右)ら

 東日本大震災の津波で多くの人命が奪われ住居が流された県内の沿岸地域。1日も早い復興と津波対策が望まれるが、多くの課題が横たわったままだ。住民と行政間の考えのずれや、東京電力福島第一原発事故の影響、予算不足...。自治体と住民は、確かな一歩がいまだに踏み出せずにいる。

いわき

■割れる意向調査

 「高台に移転するしかない」。津波で壊滅的な被害を受けた、いわき市平薄磯地区で、復興への活動を続ける志賀隆一郎区長(78)は誰でも入居できる災害公営住宅を整備する必要性を説く。「俺らでなくて、孫の代の先まで安心して暮らせなきゃだめだ。何十年、何百年後に生まれた人に津波の恐ろしさを味わってほしくはない」

 市が沿岸部住民に示している復興イメージは、基本的に現在の地区での復興を想定している。堤防設置や、津波が押し寄せた際に威力を軽減できる防災緑地の配備、防災道路の整備などだ。

 市の沿岸部住民への意向調査で全体の約56%が市の復興イメージに賛成した。しかし、津波の被害が甚大だった薄磯地区は約40%、豊間地区は約50%だったという。市内には津波被害を受けた場所にもう一度住むことに抵抗感を持っている住民も多い。

 一方、津波で流されずに残った一軒家を片付けていた薄磯地区の40代男性は、「ここにいるしかない。移転すると金銭面でも大変だ」と胸の内を明かす。市の復興計画が1日も早く決まることを望む住民もいる。

■沿岸60キロで説明会

 いわき市都市計画課の担当者は復興イメージが全ての沿岸住民に受け入れられない理由について、「防災緑地の効果や堤防の具体的な高さなどが分からず、不安視している点もあるのでは」と推測する。堤防の高さは県の計画によるため、現状では具体的な数値が示せない。

 さらに、いわき市の沿岸が約60キロに及んでいることも合意形成を遅らせている。各地区での住民に対する説明会は29日までに32回を数えた。対象地区が多く、それぞれの地域性が少しずつ異なるという難しさもある。

 全ての関係住民と合意形成するだけでもかなりの時間がかかりそうだ。

 市は高台移転の希望者数把握にも努めており、希望に添える方法も模索し始めている。

除染と費用足かせ 南相馬、相馬、新地

■原発事故の影

 南相馬市は、市内が東京電力福島第一原発事故の区域設定によって分断され、津波災害復興への取り組みがより複雑になっている。

 警戒、計画的避難、緊急時避難準備の各区域と特定避難勧奨地点、無指定の5つの地域のうち、津波被害の沿岸部は警戒と緊急時避難準備、無指定の3地域にある。

 警戒区域の沿岸部では、水道や電気などのライフライン復旧に向けた調査がようやく終了したばかり。復旧の見通しはまったくたっていない。市は9月中旬、防災集団移転促進事業の説明会を行政区長対象に開いたが、「移転計画よりも除染作業を進めてくれ」という声が相次いだ。

 市は住民の意向を踏まえ、従来のコミュニティー維持に配慮した集団移転の計画を住民に説明している。市建設部の担当者は「津波と原発の被害が交錯し課題は複雑。仮設住宅の入居期限が2年間とされる中、住宅再建策を早急に進める必要があることだけは間違いない」と話した。

■重い負担

 「市町村レベルで対応できる問題ではない」。災害公営住宅の整備と国の防災集団移転促進事業の活用を軸に支援を進めている相馬市の担当者は、国に積極的な支援を訴える。集団移転で問題になるのが予算の確保だ。

 現行制度で集団移転を実施した場合、用地造成などにかかる市の負担は数十億円に上るとみられている。年間予算が130~140億円規模の市にとっては重荷だ。用地交渉などを進める人員の不足も課題となっている。

 相馬市尾浜地区の元漁師の男性(82)は「かつてのにぎわいを市は取り戻せるのだろうか」と行く末を案じた。

 移転先に家を建てるには、住民にも重い負担がのしかかる。津波で自宅を流された新地町の無職男性(79)は「今更、新築のローンを組めるような年齢ではない」とため息をつく。

 新地町は防災集団移転促進事業を活用する準備を進めている。町の担当者は「流出した新地駅の移設などさまざまな施策を実現するためにも、津波被災地の買い上げなどが必要」と国の財政支援強化に望みを託している。

【背景】
 災害被災地を対象とした移住支援策としては国土交通省が所管する「防災集団移転促進事業」がある。住宅団地の造成や道路整備、移転経費などの4分の3を補助することになっている。政府は今回の震災後に補助率引き上げなど、事業の抜本見直しを検討しているが、方針はまだ定まっていない。一方、仮設住宅などにいる被災者については、賃貸で入居できる「災害公営住宅」の整備なども各自治体で検討されている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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