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【県産原木出荷自粛】シイタケ作れない 農家、確保に苦慮

風評被害に加え、原木の確保にも悩まされる安津畑さん=19日、塙町

 東京電力福島第一原発事故による県産原木の出荷自粛の影響で、県内のシイタケ農家は菌の植え付け時期を前に原木確保に苦慮している。本県は全国有数の原木出荷県で、販売業者はシイタケ農家と原木生産者のはざまで「いつになったら出荷できるのか」と困惑する。一方、野生キノコの出荷停止が広がり、直売所から地元産が姿を消した。マツタケ産地の組合は収入源を断たれ、不安を募らせている。

■採算合わず

 「(放射性物質による汚染で)県産原木が使えない場合どうしたら良いのか」。塙町の原木シイタケ農家、安津畑輝男さん(70)は11日、同町で開かれた東電の原子力損害賠償説明会で、風評被害に加え、原木の確保に悩まされている生産者の窮状を訴えた。

 東電側は「他県から購入してもらうか、損害賠償を検討中」と答えたが、安津畑さんは「他県から買えと言われても、単価が高くて採算が合わない」と嘆く。これまで県産のコナラやクヌギの原木(長さ約90センチ)を林業者から1本189円で買い入れてきたが、他県産は二倍近い価格という。例年なら業者に原木を発注し、必要量を伐採してもらう時期にきているが、対応を決めかねている。「安全性が確認された県産原木は出荷自粛が解除されればいいのだが」

 風評被害も深刻だ。安津畑さん方の原木シイタケはビニールハウス内で栽培されており、放射性セシウムは検出された時でも食品衛生法の暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)を大幅に下回り、40ベクレルほど。「東京の仲買人から注文が全く入らない」。風評被害で小売店からの引き合いがなくなったと聞かされた。

 昨年は県産原木1万1500本で栽培し、一千数百万円を売り上げたが、今年は原発事故の影響で6500本しか植菌できなかった。風評被害と相まって売り上げは昨年の2割程度まで落ち込むとみている。原木シイタケの栽培を始めて40年以上になるが「川の水を飲んで生きていくしかない」と窮状を表現する。「簡単にやめるわけにはいかない。諦めたくない」と必死に前を向く。

■仕事にならない

 「今年は仕事にならないのでは...」。石川町でシイタケの原木を販売する根本商店を営む根本正之さん(89)は不安を隠せない。

 例年は11月ごろに取引業者から注文を受け、注文に応じて原木生産者から必要な本数を購入する。9月に得意先の東京の業者が店に顔を出し、石川地方の放射線量などを詳しく聞いていったが、その後は連絡がない。「風評被害も広がっているし、放射線の影響も気にしているのだろう。連絡が来るのを首を長くして待っている状態」と話す。

 さらに、販売する原木が汚染されていないかも心配の種だ。仮に業者から注文が来て、生産者が伐採した原木から基準値を超える放射性セシウムが検出されれば出荷できず、別の生産者を探すしかない。「放射性物質を測る機械を借りて山に行き、自分で測って証明書を出すぐらいでないと売れないと思う」とため息をつく。

 原木生産者からは「今年は原木の販売をするのか」と問い合わせを受ける。業者と生産者の間に挟まれた格好だが、業者の注文がない限り生産者に発注はできない。「生産者には少し待っていてと言うしかない」。状況が良い方向に動きだすことを願う日々だ。

店から地元産消える、解除見通し立たず マツタケ業者ら危機感

■捨てるだけ

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例年に比べ店頭に並ぶキノコが激減している直売所=13日、猪苗代町
 例年、紅葉の時期になるとキノコを販売する多くの直売所が立ち並ぶ猪苗代町の115号国道沿いでは、野生キノコの出荷停止に伴い、店頭に並ぶキノコの数が激減した。

 地元業者は「県会津農林事務所の職員が検査に訪れるが、出荷停止の根拠が明確に示されない」と不満を募らせる。

 国は同町の野生キノコの出荷停止について、食品衛生法の暫定基準値に近い値が出たためとしている。業者によると、県の職員にどうなれば解除されるのか聞いても「分からない」と言われるという。「解除の見通しも立っておらず、このままでは野生キノコは出荷できずに捨てるだけになる」と嘆く。

 直売所での年間販売収入の3~4割を野生のキノコが占めていたという業者は、今年は数百万円の減収が見込まれている。別の業者は「今年は県外の客がほとんど来ない。出荷停止になっていないシイタケなどの栽培キノコも、福島のキノコというだけで売れない。来年以降、どうなるのか」と頭を抱える。

■損害賠償なし?

 県内有数のマツタケ産地として知られる棚倉町と塙町の松茸採取組合は9月、野生キノコの出荷停止を受け、今年の販売を見送り、収入源を断たれた。多くは個人売買で販売実態を証明しにくいため、東電の損害賠償を受けられるか分からないという。

 例年なら10月中旬の今が最盛期で、1キロ当たり数万円になる。塙町の農業戸井田祐一さん(72)は「今年は出荷できないただの野生キノコ」と肩を落とす。マツタケの自生場所である通称「シロ」を他人の目から守るため、マツタケを見つけては捨てるむなしい作業を続けている。

 棚倉町は出荷・摂取自粛を呼び掛けるチラシを全戸に配布したほか、立て看板や防災無線で注意を喚起している。しかし、マツタケが自生する山林に立ち入る人は後を絶たない。山本松茸組合の陣野勉組合長は「調査採取で入山してみると人の足跡は多い」と話し、大事に管理してきたシロが荒らされるのではないかと危機感を抱いている。

■検査法指示待ち

 郡山市の県林業研究センターには9月末、放射性物質の検出器2台が初めて導入され、原木やキノコなどに含まれる放射性物質の分析をスタートさせた。

 キノコの原木について同センターは、林野庁の公式な検査法の指示を待っている。しかし、高圧洗浄機で樹皮を除染した原木を丸ごと粉砕したチップを検出器に掛けたところ、林野庁が設定した暫定基準値の1キロ当たり150ベクレルを下回っていたという。

 検出器の導入前は、放射性物質の検査を外部の研究機関に依頼しており、自由に分析、公表できなかった。大竹清美所長は「生産者の目線に立った分析に検出器を活用し、情報を随時発信できるよう努めたい」と話す。

 福島きのこの会長で日本菌学会員の奈良俊彦さん(65)=いわき市=は「キノコは他の農産物より重金属類を吸収しやすく、放射性物質の数値が高くなる傾向がある」と指摘する。さらに空間放射線量が比較的低い地域であっても、落ち葉の近くに生えている場合は放射性物質が集積しているケースがあり、「出荷停止の野生キノコは口にせず、人工栽培したものだけを食べてほしい」と呼び掛けている。

【背景】
 林野庁によると、平成21年に全国で都道府県境を越えて流通したシイタケの原木約5万1600立方メートルのうち、本県産は約2万8000立方メートルで、54%を占めている。林野庁は8月、放射性物質が付着している可能性があるとして原木の出荷自粛を要請した。今月6日には原木の放射性セシウムの暫定基準値を1キロ当たり150ベクレルに設定し、基準を下回れば出荷できるとした。19日現在、露地栽培の原木シイタケは中・浜通りの17市町村、野生キノコは中・浜通りの全市町村と喜多方市、猪苗代町の合わせて44市町村で出荷停止になっている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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