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【いわれなき偏見】風評県民の傷深く 「感じ方」対策困難 県外避難者、工業製品...

福島市内に設置されている国の電話相談窓口。風評被害に関する県民の訴えも寄せられている

 東京電力福島第一原発事故に伴う風評被害は県産の農作物にとどまらず、工業製品や県外避難した県民も巻き込み続けている。風評被害はなぜ後を絶たないのか。国が明確な安全基準を示さない実情や、安全と主張し切れない県外自治体の苦悩が浮かび上がる。

■心ない言葉

 「一時は福島に戻ろうかと思った」。小学4年の長女と2人で5月に首都圏の賃貸住宅に避難した福島市の主婦(42)はつぶやいた。
 長女は転入した直後、同級生の一部から「放射能」と呼ばれたり、「放射能がうつる」とからかわれたりした。避難前からの心配が現実となった。子ども同士とはいえ、心ない言葉に泣いて帰ってくるわが子。気持ちが落ち込んだ。
 同級生の多くは長女の気持ちを思い、優しく接してくれている。それでも時折傷つく言葉が向けられる。からかう子どもを非難する気持ちにはなれない。「原発事故で古里を離れたつらい気持ちを保護者や地域のみんなが本当に理解してくれなければ、風評被害は抑えられない」と思っている。

■転売できない車

 経済産業省原子力安全・保安院が福島市内に設けている原発事故の電話相談窓口。県内外から毎日100件前後の相談が寄せられている。最近目立つのは、県内から車を持ち出した県民が中古車販売店などから転売を断られるケースだ。理由は放射性物質が付いている可能性があるからだという。
 中古車には規制基準はない。しかし転売を販売店に強制することはできない。担当の男性(49)は「納得してもらえる回答は難しい」と打ち明けた。
 警戒区域から群馬県藤岡市に避難した女性が持ち出した車を群馬県が放射線量測定をした問題で、藤岡市の担当者は県の検査の以前に、車を洗うことを求めていたという。
 警戒区域から出る際に車は放射線量測定を受け、基準値以下でなければ持ち出せない仕組みを説明しても、市の担当者は「住民同士の融和を保つため」などと説得したという。対応について市の幹部は「職員に知識不足があった」と非を認めている。

■基準設定を

 風評被害の発生防止への抜本的な対策は国も本県も打ち出せないのが現状だ。経済産業省の風評被害担当者は「風評には形がない。やめてほしいと求めても個人の感じ方次第で生まれてしまう。対策が難しい」と説明する。
 食品には出荷制限などに関する放射性物質の暫定基準値があるが、工業製品などには基準がないことも背景にある。県はこれまで何度か国に対し、工業製品の放射線量に関する安全基準を設定するよう要望してきたが、実現の見通しは立っていない。

【背景】

 群馬県藤岡保健福祉事務所は今月3日、本県の警戒区域から藤岡市に避難している女性の車の放射線測定を行った。9月18日には愛知県日進市の花火大会で、川俣町の花火店が製造した花火の打ち上げが、市民の苦情で中止された。大阪府河内長野市では地元住民が7月末の事業説明会で不安視したことで郡山市の建設会社が造った橋桁を使う予定の架橋工事が中断している。全国で本県関係の工業製品などに対するいわれなき風評被害が相次いでいる。


「安全」説明に苦慮 県外自治体ジレンマ 「心配する住民、納得しない」

■苦情の電話

 川俣町内で製造された花火の打ち上げを中止した愛知県日進市。萩野幸3市長が9月下旬に町内を訪れ、古川道郎町長らに謝罪した際、購入した花火80発を早期に打ち上げる意向を表明した。しかし、同市の市民の一部から「なぜ打ち上げるのか」という苦情の電話などが再び市役所に寄せられるようになったという。
 市は花火玉に含まれる放射性物質を調査し「人的影響や農作物、河川などへの影響はない」と確認した。ただ、一部の玉から微量の放射性セシウムが検出された。このため市によると、健康に影響がなくても、放射性物質がゼロではない以上、持ち込んでほしくないとの声があるという。
 打ち上げ時期を検討してきた花火大会実行委員会は18日、来年度の委員会での議論継続を決め、年度内打ち上げの可能性はなくなった。市の担当者は「心配する市民は調査結果を示すだけでは納得しない。いつ打ち上げられるか分からない」と苦渋の表情を見せた。

■「国の役目」

 「住民から不安だと言われれば、絶対大丈夫とは言えない」。大阪府の神田祥司道路建設グループ課長補佐はジレンマに陥っている。郡山市内で製造された橋桁を使う予定だった府発注架橋工事は中断したままだ。
 地元の河内長野市からは「住民の不安を解消するよう十分に説明してほしい」と求められている。府が橋桁の放射線量を9月に測定した結果、毎時0.08マイクロシーベルトと低かった。しかし、工業製品に関する国の安全基準がないため、住民に安全性を説明する根拠が見いだせない。
 府は24日、大学教授らによる有識者会議を設け、対応を協議することにした。工事中断を決めてからもう3カ月近く経過している。「工業製品に関する基準がない現状が過剰反応を生み、風評被害につながっている。地方自治体は基準をつくれない。国の役目だ」と神田課長補佐は訴えた。

■浸透不足

 県ハイテクプラザに寄せられる工業製品の風評被害の相談は減少傾向にある。4月の1765件に対し、9月は191件だった。企業からの相談が減ったためだが、逆に県外の一般市民からの相談が目立つようになったという。
 担当者は「企業間では放射性物質への理解が進んでいる。しかし、一般にはまだ浸透していない」と指摘する。その上で「過剰反応が増える可能性も否定できない」と懸念している。

■全国に知識普及必要 放射線健康リスク管理アドバイザー 高村昇氏に聞く

 県外で起きている風評被害に関し、県放射線健康リスク管理アドバイザーの高村昇長崎大大学院教授にインタビューした。住民に直接対応する立場にある全国の自治体に放射線に関する知識を普及させる必要を強調した。

 ―県内を走る車のタイヤなどに放射性物質が付着し、危険が生じることはあるか。
 「放射性物質の付着はゼロではないだろうが、現在の県内の空間放射線量から考えれば極めて微量。無視できる水準だ」

 ―県内でつくられた工業製品の放射性物質に県外で不安を感じる住民もいる。
 「工業製品は工場など室内でつくられる。移動の際もカバーなどを付けるはず。県内では現在、基本的に空気中に放射性物質は存在していない。放射性物質の混入や付着はほとんどない。理論立てて説明すれば分かるはず。認識不足から誤解が生じている」

 ―こうした風評が県民自体への偏見につながらないか。
 「広島、長崎の原爆被爆者の調査で、非常に高い線量を体内で被爆した人を除けば、体が不自由な子どもの出産などの影響は、二世を含め科学的に証明されていない。それなのに多くの被爆者が結婚が許されないなどの偏見や差別に遭った。福島県内の今の状況で県内の適齢期にある人の結婚、出産については何の心配もない。現代社会でかつての長崎や広島と同じ風評被害の過ちを繰り返すことは許されない」

 ―行政にどのような対策が求められるか。
 「継続的な情報発信が必要だ。全国の都道府県など自治体に住民の偏見や誤解を解く明確な知識や回答例などを提供することも検討してはどうか。それを基に自治体は常に住民にアピールしていくべきだ。しっかりとした対策を講じていかなければならない」

カテゴリー:3.11大震災・断面

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