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【相馬・宇多川やな漁開始】サケ漁存続に危機感 放射性物質は未検出 風評拭えぬ不安

宇多川下流に設けられたやな場で始まったサケ漁=相馬市

 県内浜通りの各河川でサケ漁が始まり、相馬市の宇多川鮭増殖組合は23日、やな漁をスタートさせた。ただし今年は、東京電力福島第一原発事故による避難区域の設定などで、サケ漁と採卵・放流事業が実施できるのは県内10組合のうち5組合だけしかない。県内では沿岸、河川いずれでも捕獲したサケから放射性物質は検出されていない。それでもやっと漁にこぎつけた組合員は風評被害への不安を拭いきれない。人工採卵によるふ化事業への影響も懸念され、関係者は危機感を募らせている。

■3週間遅れ

 「ようやく待ちわびた日が来た」。相馬市の松川浦に程近い宇多川下流のやな場で、宇多川鮭増殖組合の遠藤貞夫さん(76)はサケをつかむ手に力が入った。
 同組合は例年10月1日ごろに漁を始めている。だが今年は遡上(そじょう)するサケの放射性物質の有無を検査するため延期になっていた。10月2日から16日にかけて各河川の17検体で行われた県のモニタリング検査で全て「未検出」だったことを確認できた。3週間余り遅れたが、漁を始めた。
 初日は組合員約10人が集まり約500匹を捕まえた。初日としては例年以上に多い漁獲だ。体長は例年並みの70~80センチあり、重さは平均3キロ超。関係者は「まずまずの魚体。しかし、昨年のように売れるのだろうか」とつぶやく。
 南相馬市の真野川鮭増殖組合でも28日の漁開始に向けて、おりをやな場に移動させている。急ピッチで漁を開始する準備を進めているが、組合員の表情は複雑だ。

■安全性訴え

 県のモニタリング検査では23日現在、サケの筋肉、卵巣、精巣いずれからも放射性物質は検出されていない。県は今後もそれぞれの河川で定期的に調査を続ける予定だ。
 県水産試験場の五十嵐敏場長(58)は検査結果について、「サケの生態を考えるとうなずける」と語る。サケは約4年間、北太平洋を回遊し成魚になって生まれた川に戻る。「戻って来るサケは途中でほとんど餌を食べない。原発事故当時も本県から離れた海域におり、他の魚に比べて影響はない」と安全性を訴える。

■先行き不透明

 いわき市の夏井川鮭増殖漁業組合では今年度は3500匹の捕獲を計画している。9月末にやな場を設置し、捕獲作業を始めた。捕った2000匹のサケは販売用にされた後、塩鮭などに加工される。一方、将来の漁獲を見越して残る1500匹で採卵とふ化事業を行う。採卵数は例年通りの150万粒を目指し、11月から来年3月にかけて60~80万匹の稚魚を確保したい考えだ。鈴木司良組合長(69)は、「ふ化事業は将来への投資で、サケ自体が売れないと収支が赤字になる。しかし、先行きは全く不透明だ」と懸念する。
 県内のサケ漁は通常、県内十河川以外に沿岸の近海でも行われている。しかし、沿岸での漁は自粛中で、沿岸漁が行われていないこともイメージダウンにつながっているとの見方もある。
 宇多川鮭増殖組合は23日に捕獲したサケを水産加工会社に出荷した。しかしすぐに流通させずに、新巻きザケやイクラに加工後に県の検査結果を見ながら市場に出すかを判断する予定だ。同組合事務局の遠藤和則相馬双葉漁協総務部長(56)は「将来のサケ漁のために、捕獲し採卵、放流を継続することへの使命感と販売できるのかとの不安な気持ちが交錯している」と語る。
 真野川鮭増殖組合の深沢光雄組合長(83)にとっても風評被害は大きな悩みの種だ。昨年度7000匹のサケを捕獲した。「例年ならサケを買い取る業者が訪れるころだが、今年は1人も来ない。帰ってきた4年後のサケにも風評被害が付きまとうかと考えると気が重い」と落ち込んだ。


警戒区域内は一層深刻 漁、放流できず 「組合何年持つ」

■瀬戸際の経営

 警戒区域内にあるため漁ができない五漁協の悩みはさらに深い。東京電力に対する賠償請求の作業を進める木戸川漁協の鈴木謙太郎養魚場長(29)は「貯金を切り崩して何とか運営している」と苦しい胸の内を明かす。
 同漁協はサケ漁や養魚場で養殖するアユなどの稚魚を販売し、多い年で1億円を超える売り上げがあった。しかし、原発事故で状況は一変。東京電力福島第一原発から約17キロの漁協周辺は警戒区域になり、収入の大きな柱だったアユの稚魚は4月の出荷目前にほぼ全滅した。収入の6、7割を占めるサケ漁もできず、4人いた職員も2人にした。
 警戒区域が解除され、業務が再開できたとしても難題が山積している。販売場や加工場は津波の被害を受け修繕が必要で、今春はほとんど稚魚を放流できなかった。鈴木場長は「組合が何年持つだろうか」と嘆いた。

■4年後を危惧

 福島第一原発から約8キロの浪江町の請戸川の泉田川漁協は7月、今年の事業中止を決めた。
 同漁協は東北最大級として知られるやな場を持ち、毎年秋に多くの観光客でにぎわう。毎年6万~9万匹の漁獲があり、毎年平均約1500万匹を放流していた。
 サケは天然に比べ人工のふ化率が高く、組合による採卵、放流事業が漁を支えてきた。同漁協の担当者は「自然にふ化しても4年間、事業ができなければ、川に戻って来るサケがいなくなる可能性がある」と危惧する。従業員の高齢化も進んでおり、技術の継承も課題だ。
 石井仁組合長(76)は「明治41年から続く漁が途絶えた。ちょうどこの時期は最盛期を迎えていたはず。何とか漁を再開できないものか...」と厳しい表情を浮かべた。

【背景】

 県内で川サケ漁を行っているのは福島市の阿武隈川、相馬市の宇多川、南相馬市の真野川、新田川、小高川、浪江町の請戸川、大熊町の熊川、富岡町の富岡川、楢葉町の木戸川、いわき市の夏井川の県内10組合。このうち小高川、請戸川、熊川、富岡川、木戸川の5組合が警戒区域内にあり、施設の復旧工事などのめどは立っていない。昨年度の本県のサケの捕獲数は約12万1000匹で、北海道、岩手、宮城、青森に次いで全国5位だった。昨年度は記録的な不漁だったが、例年は20万匹前後で推移している。平成20年度の県内の放流数は5033万4000匹。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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