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【予算切れで中断】いわき市漁協がれき撤去 漁業者、収入源失う 集う場消え、転職懸念も

漁船から漂流物を運び出す組合員=7月6日午前11時ごろ、いわき市久之浜漁港

 国などの補助を受けていわき市漁協が漁業者の雇用対策などで実施してきた漁場のがれき撤去作業は24日で予算が底を突き、中断された。国は3次補正で引き続き予算化する方針だが、現段階で漁業者に具体的な事業内容は示されておらず、中断がいつまで続くかは不透明。東京電力福島第一原発事故で7カ月余りも漁を自粛している漁業者の貴重な収入源が宙に浮き、不安も広がっている。

■想定外のずれ込み

 「再開は11月になるか、12月になるか、全く分からない。体に気を付け、漁業復興に向けてまた元気に会いましょう」。がれき撤去作業が中断された24日、いわき市の久之浜漁港で、江川章いわき市漁協副組合長兼久之浜支所長は作業に取り組んできた組合員に語り掛けた。
 同漁協は撤去の補助事業が始まった6月以降、久之浜、四倉、豊間など各漁港周辺の漁場のがれき撤去を進めてきた。作業は平日だけで、雨天の場合は中止。保険代なども含め1人の日当は1万2100円で、毎回約400人が参加した。
 事業開始の段階で、10月末までの作業計画を立てた。そのころには漁業が再開しているはず、漁ができなくても事業費が追加されるはず...。漁業者の願いむなしく、国の3次補正予算の成立は想定よりも大幅にずれ込み、長期間の中断期間が生まれる事態となった。
 漁自粛を続ける漁業者にとって東京電力の賠償金を除けば現金収入の道が閉ざされる。3次補正の成立は今国会の動向次第。「一日でも早く、何とか作業を再開させてほしい」。江川副組合長は漁師の気持ちを代弁した。

■空白期間

 漁業者は、がれき撤去の期間、定期的に漁港を訪れた。その際、魚や貝のモニタリング結果を聞いたり、組合員同士の近況を報告し合うなど、情報交換の場ともなっていた。当面の間、こうした機会が失われる。「"空白期間"が長くなれば、組合員は精神的にもつらいだろう」と漁協関係者は懸念する。
 原発事故が収束せず、漁再開の見通しが立たない中での作業打ち切り。収入源が断たれた上に、漁業者同士のつながりが薄れ、漁業以外への転職を考える組合員も出てくるとみる関係者も多い。
 「おやじから引き継いだ大事な船だから、(漁再開を)10年でも20年でも待つつもり」と話す久之浜漁港所属の「宝福丸」3代目の遠藤洋介さん(30)。漁業を離れた仲間もいるとした上で、「家族の生活が懸かっていることだから、無理に引き留めることはできない」とつらい胸の内を打ち明けた。
 「喜久丸」2代目で県漁業協同組合青壮年部連絡協議会長の吉田康男さん(44)は「情報が断たれ孤立しないよう、(作業再開まで)漁師同士が綿密に連絡を取り合っていきたい」と互いの絆を保つことに力を注ぐ考えだ。

再開時期、不透明 雇用確保に課題 がれきの全容不明

■確約がない

 補助事業継続の経費を盛り込んだ3次補正予算案は28日に国会に提出される。水産庁の担当者は「漁業者が地元を離れなくて済むよう事業は必要」と意義を説く。その上で、予算成立以前に実施した、がれき撤去作業もさかのぼって補助対象とする制度の導入を検討しているという。
 しかし、県漁連の関係者は「予算が成立し、具体的な事業がはっきり分かるまでは、漁協に対し、前倒しでやってもいいとは言えない」と実情を明かす。
 3次補正で補助される作業や、さかのぼって請求できるという確約が示されない以上、「もし作業をした後から認められない部分が出てきたら、支払いができなくなってしまう」と訴えた。

■撤去1万5千トン

 補助事業で本県の漁場から撤去された、がれきの量は9月末現在で約1万5千トンに達した。しかし、県の担当者は「どのくらいのがれきが残っているのか。現在の進捗(しんちょく)状況さえ分からない状況で、先が見えない」と厳しい現実を説明した。漁場にがれきが残っていると、漁再開後の網の設置などに支障が出る恐れがあるという。県は業者にも委託して撤去を進めているが、まだまだ足りないという。漁業者の雇用確保の観点に加え、漁場再生の面でも補助事業継続の必要性を主張している。

■早く漁をしたい

 相馬双葉漁協は松川浦の内側、漁港周辺の海域でがれき撤去を進めてきた。予算の残額を計算し、休業日を設けるなど調整しながら作業を進めており、12月いっぱいは続けることができる見通しだ。南部房幸組合長は「早く漁をしたいというのが漁業者みんなの願い。しかし漁ができない以上、国には引き続きしっかりと対応してほしい」と求める。
 小名浜機船底曳網漁協は現在の予算で11月まで行う計画だ。前田久経理部次長は「漁を自粛している中、がれき撤去は漁師の生活の糧になっている。東電の賠償も全額ではなく、事業継続は欠かせない」と強調した。

【背景】
 国は東日本大震災後、雇用確保と漁場回復を目的に1次補正予算で漁場復旧対策支援事業としてがれき撤去の補助事業を盛り込んだ。必要な経費のうち、国が5分の4、県が5分の1を負担し、県漁連を通じて三漁協に補助している。補助枠はいわき市漁協に4億3千万円、相馬双葉漁協に10億2400万円、小名浜機船底曳網漁協に3千万円が割り当てられた。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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