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【タバコ農家4割強廃作】原発危惧苦渋の選択 収量減、事故追い打ち

 かつて全国有数の葉タバコ産地だった本県は、日本たばこ産業の廃作募集に栽培農家の4割強が応じたことで産地衰退が加速する懸念がでている。耕作を断念した農家は、東京電力福島第一原発事故の影響を危惧して苦渋の選択をしたケースも少なくない。栽培を継続する農家にも不安が残る。廃作により広大な遊休農地が発生し、跡地利用も課題として浮上している。

■申し訳ない

 「原発事故さえなければ耕作を続けられたのに」。田村市の50代男性は苦しい胸の内を明かす。
 父親の代に始めた葉タバコ栽培を引き継ぎ、1・5ヘクタールの畑を妻や母親と守ってきた。たばこの相次ぐ値上げや健康志向の高まりで喫煙人口が減少し、天候不順などの影響もあって収量は年々落ち込んでいた。将来を危ぶむ一家に原発事故が追い打ちを掛けた。
 県たばこ耕作組合は原発事故で今年の全作付けを断念したのに伴い6月、1年間の県内全農家の損害として約31億円の賠償を東電に請求した。しかし、来年も賠償の対象になるかは分からない。原発事故の風評被害がこの先、どのくらい尾を引くのかも不透明だ。「経費を掛け準備しても結局、出荷できない事態になるかもしれない」と、男性は廃作を決断した理由を明かす。
 郡山市の70代男性は、雑草が生い茂る自宅前の畑を見ながら「力が抜けた」と肩を落とす。3代続いた葉タバコ農家で約60年間、栽培に心血を注ぎ子どもを育ててきた。「おやじやじいさんに申し訳ない」。その後の言葉が続かない。

■減反対象とせず

 日本たばこ産業は廃作に限って10アール当たり28万円の協力金を支払うとしており、減反は対象外となっている。
 郡山市葉たばこ振興協議会長の吉田福男さん(66)は「今後しばらくは売り上げが伸びないと予告しているようなもの」と厳しい先行きを予想する。葉タバコ栽培を継続する農家は同じような不安を抱えている。
 「来年も廃作の募集があるかもしれない。もう少し若かったら他の選択肢もあったかもしれない」。吉田さんはJAが廃作農家らを対象に開く野菜栽培説明会の資料を見ながらつぶやいた。

■予想外

 「廃作に応じるのは1、2割程度と思っていた」。県たばこ耕作組合の吉田昭久参事(55)は全体の4割強が廃作する事態に戸惑いを隠せない。
 日本たばこ産業が茨城県など本県以外の産地を対象に8月から葉タバコに含まれる放射性物質を調べている。これまでに社内の暫定基準値(1キロ当たり放射性セシウム500ベクレル、放射性ヨウ素2000ベクレル)を上回った例はなく、同組合は「警戒区域や計画的避難区域を除けば来年の作付けは可能」と見込んでいた。
 栽培農家からは風評被害の影響を心配する声も相次いでいる。吉田参事は「来年以降の耕作を不安視する農家が多い中、協力金が呼び水になったのでは」と推察する。

広大な跡地利用課題 農家の高齢化、風評被害 転作決め手欠く

■276ヘクタル

 県内では来年、県中・県南地方を中心に1167戸の農家が計904ヘクタールへの作付けを予定していた。廃作により遊休農地化する面積は276ヘクタールに上る。
 葉タバコを基幹作物にする田村市は特に深刻だ。現在の栽培面積は市町村別で最多の336ヘクタールだが、このうちの3分の1に当たる108ヘクタールが未栽培地になる。
 市はJAたむらなどと連携し、ピーマンやブロッコリーなどの産地化を進めているが、高齢者の多い廃作農家がどの程度、栽培手法や設備の異なる野菜に転じるかはつかめない。市農林課の担当者は「他の作物を植えたとしても風評被害への懸念が付きまとう。現時点では明確な案を示せない」と頭を抱える。
 県は、県たばこ耕作組合を通して全廃作農家に営農相談窓口の案内文を送ったり、各JAや市町村と連携して研修会を開催したりして転作を促す考えだ。しかし、農家の高齢化、原発事故に伴う風評被害対策などの課題解決への決め手に欠く。関係者は国や県に転作農家への一層の支援を求めている。

■産地衰退

 県内の栽培農家は昭和23年に4万7389戸、栽培面積は昭和41年に8310ヘクタールに達した。現在、戸数は40分の1、面積は9分の1に激減している。
 全販売額は昭和54年の322億円をピークに年々減少し、昨年は32億円だった。廃作で県内の基幹産業の衰退に拍車が掛かる懸念もある。

【背景】
 県たばこ耕作組合は東京電力福島第一原発事故に伴う生育不安や風評被害が懸念されるとして4月、今年の作付けを見合わせることを決めた。一方、日本たばこ産業は少子高齢化や健康意識の高まりなどに伴う国内たばこ市場の縮小を理由に8月、全国の生産農家に廃作を募集。県内では全栽培農家1167戸のうち、42%に当たる488戸が応じた。全国平均は39%で県内は3ポイント上回っており、原発事故を機に栽培に見切りをつけた農家も多いとみられている。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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