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【農家、風評拡大を懸念】福島・大波のコメ出荷停止 抽出検査に限界 JA、国に対策強化求める

基準値を超える放射性セシウムが検出された玄米=福島市・東部営農経済センター

 福島市大波地区の一部のコメから基準値超の放射性セシウムが検出され、政府が出荷停止を指示した問題は県内の農業関係者に大きな衝撃を与え、風評被害拡大への懸念が再び広がった。各JAは払拭(ふっしょく)策を模索するが、抽出検査の限界に頭を抱え、国に対策強化を求める。流通業者からは「信頼回復には全量検査するしかない」との声も上がる。

■人、機器足りない

 17日、福島市のJA新ふくしま本店で開かれた緊急の出荷対策会議。出席した吾妻雄二組合長や県、市の担当者からは「これまでしっかり対応してきたのに残念」との言葉が相次いだ。
 同JAは生産者と消費者の安全・安心を確保するため、集荷したコメのほぼ全ての放射性物質検査を市に依頼。問題がなかった農家のコメだけを出荷する「全戸検査」の態勢を敷いてきた。1日に検査できる検体数は20件弱と少なく、業者への出荷が遅れがちになったが、「万全の上に万全を期す」ための措置だった。それだけに、同JA関係者のショックは大きい。
 幹部の一人は「出荷前の水際で防げたことは不幸中の幸い。その点では、全戸検査の成果が出た」と力を込める。ただ、「1枚の田んぼの中だけでも、汚染の程度は場所によって異なり、サンプリング検査の限界が出た。土壌対策を徹底しなければ、再び同じ事態を招きかねない」と危惧する。
 いわき市のJAいわき市も焦りを強める。新ふくしまと同じく出荷前に放射性物質を調べているが、検査機器が1台しかないため、大口の農家に限って対応している。担当者は「国や県が早急に検査人員と機器を充実させてくれなければ、これ以上の対応は無理」と訴える。
 本宮市のJAみちのく安達は独自の検査をしていなかったが、今後、検査体制の構築を検討したいとしている。
 JA新ふくしまは17日、福島市鎌田の東部営農経済センターの倉庫に保管している基準値超えのコメを公開した。倉庫内には「ふくしまの米」と書かれた30キロ入りのコメ袋10個が置かれたままだった。

■ため息

 「こんなはずじゃなかったのに...」。福島市大波の農業伊藤俊一さん(74)は倉庫に保管した出荷前のコメ袋を前にため息をつく。
 約80アールの田んぼでコメを生産し、生計を立てていた。県の調査で"お墨付き"が出て安心していたという。「本当に残念。国にしっかり補償してもらうしかない」と話す。
 同地区の農業佐藤秀雄さん(64)は県が4月に実施した土壌調査のサンプル数の少なさに疑問を感じていた。「もっときめ細かく調査すべきだったのではないか」と指摘。長年農業を営む男性(72)は「戦争の時は食べ物がなかったが、今はコメがあっても食べられない。東京電力は責任ある対応をしてほしい」と憤った。
 放射性物質の影響が少ない会津地方も人ごとではない。会津美里町の農業風間明さん(75)は「県の安全宣言は何だったのか」といら立ちを隠さない。すでに県内の個人売買の取引先から断られたケースもあり、「これ以上、風評被害が広がらないでほしい」と願った。

問われる安全宣言 消費者は困惑 流通業者「全量検査しかない」

■胸の内

 県の「安全宣言」が出されたはずの県産米からセシウムが検出されたことに、消費者も困惑している。
 福島市の公務員女性(33)は、昨年までスーパーで県産米を購入していた。しかし、東京電力福島第一原発事故後は他県から取り寄せている。「大波の事例を聞いて、より不安が高まった。当面は県産米を買う気になれない」と胸の内を明かす。
 郡山市の主婦内田晴子さん(70)は毎年、地元産の新米を買っていたが、今年は会津産に切り替えた。県外産の購入も検討したが、本県の農家を応援しようと、県内産を食べ続けている。「店頭に並ぶコメを一つ一つ検査し、結果が添付されていれば安心できる」と提案する。
 一方、川俣町の画家大野哲司さん(76)は「特異なケースだと思う。あまり神経質にならない方がいいのではないか」と冷静に受け止めた。

■コメ相場変動なし

 民間のコメ調査会社「米穀データバンク」によると、17日のコメ相場は県産米の価格、取引量ともに大きな変動はなかった。担当者は「業者は比較的冷静。しかし、消費者の反応次第では今後、影響が出てくる可能性もある」と分析する。
 県内の流通業者の反応はさまざまだ。ヨークベニマル(本社・郡山市)は「市場に出回っている県産米は検査で安全が確認されている」として、今後も県産米を取り扱う方針を示す。
 一方、「いちい」(本社・福島市)は今季、会津産と県外産のコメだけを店頭に並べている。さらに、卸業者から入荷したコメに放射性物質が含まれていないか、独自に抜き打ち検査を続けている。
 担当者は「中通りや浜通りの生産者の皆さんには申し訳ないが、消費者の安全を考えての対応。今回、大波地区で検出されたことは驚くことではない」と話す。その上で「県の安全宣言は何だったのか。物理的には難しくても全量検査を実施しないと、消費者の信頼はとても得られない」と指摘した。

【背景】

 福島市大波地区は市東部の山あいにあり、約150戸合わせて約60ヘクタールでコメを生産している。東京電力福島第一原発事故後、空間放射線量が比較的高い数値で推移し、一時は特定避難勧奨地点への指定が検討された。県が9月中旬から実施したコメの本調査で、大波地区産を含む県内の全検体の放射性セシウムが食品衛生法上の暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)を下回り、県は10月12日に安全宣言を出していた。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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