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【問診票回収進まず】先行地区以外は15% 県民健康調査

返送していない問診票を見詰める鈴木さん=28日、福島市松川町の仮設住宅

 東京電力福島第一原発事故による全県民の被ばく量を調べる「県民健康管理調査」で、一部の先行地区以外の問診票回収率は15%にとどまっている。県が28日の県議会政調会で明らかにした。原発事故から8カ月が経過し、当時の記憶が薄れつつあるのに加え、調査への関心が高まらないことも背景にあるとみられる。線量の高い先行地域の回収率も頭打ちで、県は対応に苦慮している。

■返ってこない
 「どうして返却されてこないのか。原発事故による健康に対する関心は高いと思っていたのに...」。県民健康管理調査を担当する県職員は危機感を募らせている。
 県は浪江町、飯舘村、川俣町山木屋地区の先行調査地区以外の県民約202万8000人を対象に、8月下旬から問診票の郵送を開始。避難先の住所が分からない数100人分を残し、今月17日までに発送作業を完了した。
 2週間以内の返送を呼び掛ける文書を同封しており、今月中に完全回収する目算だった。しかし、10日までに返ってきたのは15%の約30万人で約172万8000人から答えはない。先行調査地区の回収率は10日現在、約49%で1カ月前から1.5%しか上昇していない。
 問診票回収が進んでいない状況は、県議会政調会での議員の質問で明らかになった。
 この議員は選挙期間中、有権者から「問診票をどう書いていいか分からない」と質問を浴び続けたという。
 県は回収率が伸び悩む要因として、原発事故当時の行動記録を思い出すことができなくなっている県民が多いと推測する。

■暗雲
 県が最も懸念しているのは、県民の健康を把握を徹底できずに時間が経過してしまうことだ。
 30年に及ぶ健康管理調査が出発点で大きくつまずく事態だ。一定量のデータがそろわなければ、今年度中に完了させる予定の避難区域外の詳細調査のスケジュール決定に支障が出かねない。
 基本調査を受けなければ、病気の自覚症状が出るまで発見が遅れる可能性もある。さらに、長期の低線量被ばくと健康被害への因果関係を割り出すことは難しく仮に、がんなどを発症した場合、国による治療費助成などの措置を求めることが困難になる。
 県民健康管理調査事務局の担当者は「調査の重要性の説明不足が回収率の低迷に影響している」とみて、今後ははがきの発送などによるPRを検討している。しかし、「抜本的な解決策はなく、地道にやるしかない」と頭を抱えている。

【背景】
 東京電力福島第一原発事故を受け、県は県民の不安解消と疾病の早期発見のため全県民を対象に「県民健康管理調査」を進めている。6月から放射線量の高い浪江町、飯舘村、川俣町山木屋地区の約2万9000人を対象に問診票で被ばく量を調べる「先行調査」を実施。先行地域以外の「基本調査」の問診票の送付を終えた。基本調査の結果、被ばく量が多かった人や避難区域に住んでいた人から採尿や採血する「詳細調査」も予定している。10月からは18歳以下の子ども約36万人に対する甲状腺検査を始めた。

人員不足、訪問に限界 関心、地域で温度差 県民健康調査回収

 県の県民健康管理調査で問診票の回収が低迷する中、県は仮設住宅を訪問して記入を支援する活動に乗り出した。しかし、限られた人員での活動には限界があり、民間借り上げ住宅への避難者や一般県民への記入支援には手が回らないのが現状だ。東京電力福島第一原発に近い地域と、原発から離れた地域の住民とで調査への関心に温度差がみられ、問診票への記入の煩雑さを指摘する声も根強い。

■啓発の職員不在
 「問診票の記入を支援する態勢を、もっと整えることができれば...」。福島医大放射線医学県民健康管理センター事務局の根本達弥主幹はもどかしそうに話す。
 センターは26、27の両日、福島、伊達両市の仮設住宅で書き方支援講習会を開いた。福島医大の学生ボランティアらが代筆したこともあり、合わせて50人から提出を受けた。
 しかし、基本調査を担当する事務局職員は20人足らずで、啓発専門の職員はいない。学生ボランティアの協力を受けざるを得ず、開催日は休日中心となるのが現状だ。「仮設住宅を全て回りたいが、人員不足。借り上げ住宅や他の地域の啓発には手が回らない」と限界感をにじませる。
 センターは講習会以外にも、県内各市町村や病院に書き方を説明する啓発用のDVDを配り、記入を呼び掛けている。だが、問診票の発送直後は一時的に返送が増えるが、その後はほとんど届かなくなるという。
 現在、コールセンターに8回線の電話を設け、担当者が詳細な記入方法を説明している。「予想より伸び悩んでいる。問診票の必要性を理解してもらうしかない」と訴える。

■心配ない
 比較的放射線量が低く、原発から離れた地方の住民の調査に対する関心は低い。福島医大によると、10月11日現在の問診票の回答率は相双地方が24.4%なのに対し、他の地方は1.2%~3.9%にとどまっている。
 小学生の2人の子どもと夫の4人暮らしの南会津町田島の主婦(39)は「南会津町は放射線量が低く、ある程度、安心して生活している。問診票に記入する気になれない」と明かす。
 石川町の自営業酒井正喜さん(57)は、震災直後、ガソリンの入手が難しく、自宅近くの店舗にしか行っておらず、被ばくの心配はないと感じている。「年齢的に心配していない。小さな子どももいないし...」と問診票を返送していない。
 会津若松市のタクシー運転手中川孝明さん(40)は「設問に答えるだけで健康状態が十分把握できるのか」と疑問視し、「本当に必要なら、きちんと医療機関で受診する仕組みをつくるべきだ」と指摘する。

■覚えていない
 問診票への記入をわずらわしく感じる住民は少なくない。
 福島市内でも放射線量が比較的高い渡利地区に住む自営業男性(41)は「小中学生の娘がおり、健康調査に関心はあるが、項目が多過ぎる」と不満を漏らす。「調査も大事だが、今は除染を優先してほしい」といら立ちを隠せない。
 中学1年の娘がいるいわき市の自営業男性(48)宅には数日前に問診票が郵送されてきた。「混乱していた震災直後に、どこにいたのか、何を食べていたかなんて覚えていない」と戸惑う。「協力したいが、どうすればいいのか」と悩んでいる。
 一方、福島市松川町の仮設住宅に住む飯舘村の鈴木あい子さん(66)は日記を見ながら途中まで記入した。だが、線量が高い時期に村にいたため、「いまさら調査しても」との思いが強い。返送せずに戸棚にしまい込み、記入支援の説明会にも出席していない。

■外部被ばく量知る唯一の機会 安村福医大教授
 福島医大医学部公衆衛生学講座教授の安村誠司同大放射線医学県民健康管理センター副センター長は「外部被ばく線量を知ることのできる唯一の機会。体や心のケアが必要な人への対応が可能になる」と調査の重要性を語る。
 記入項目が多い点については「内部被ばくに関する情報も求めているため」とし、「受けた放射線量を総合的に評価する上で必要になる。被ばく線量が低いと思われる人も、調査を通してそれを確認することが大切だ」と訴える。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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