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【伊達2地区のコメ出荷停止】 揺らぐ県産ブランド 農家に落胆、苦悩 応えるすべ見いだせず

直売所から引き取ったコメを手にする農家の女性

 福島市大波地区に続き、伊達市のコメからも基準値を超える放射性セシウムが検出され、県内の動揺は29日、さらに広がった。地元の農家は落胆し、会津地方の生産者は県産ブランド全体への影響を懸念する。県は全戸検査の拡大に踏み切ったが、対応の遅さに批判が集まる。「安全宣言は一体何だったのか」。消費者の不安と不信感は頂点に達している。

■申し訳ない
 「どうして県は安全宣言を出したのか」。伊達市霊山町下小国の農家女性(67)は、消費者や出荷仲間に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。春先は今年の作付けを諦めるつもりだったが、国や県、JAも栽培可能としていたため、全体の6分の1の10アールだけ栽培した。今月2日に精米。孫たちにも食べさせたいと、すぐに市に簡易検査を申し込んだ。予約がいっぱいで検査は17日になった。県が"安全宣言"していたこともあってその間に地元直売所に12袋を出した。
 18日に市の調査結果が分かる。白米は基準値に近い476・7ベクレルだった。すぐに直売所に出していたコメを引き揚げた。しかし、12袋のうち7袋がすでに販売されていた。1袋(1.5キロ)は持ち主から返品されたが、残りの6袋(9キロ)の販売先は分からない。
 あらためて22日に自主的に専門機関へ依頼して調べると玄米で700ベクレルを超えていることが分かる。だが、どちらも個人の調査だったため県の調査結果を待っていたという。「夜も眠れない気分」が続いた。「たった数カ所のサンプル調査が基準値以下だからといって安全宣言を出してよかったのか。もっと慎重に調査してほしかった」。周りに迷惑を掛けてしまった悔しさを訴えた。
 基準値を超えたコメが販売されていた伊達市霊山町小国地区にある直売所の代表男性(63)もショックを隠せない。「周辺の農家はお金よりも、楽しみや生きがいのために農業をしている。何も悪いことをしていないのに、それまで奪ってしまった」とうつむいた。
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17日に調査した市の簡易調査の結果表。白米でセシウムが476・7ベクレルを検出した

■どうすれば...
 「まさか出荷停止なんて...」。伊達市月舘町相葭(あいよし)の農家男性(58)は計画的避難区域となった飯舘村との境界のわずかな田んぼでコメを栽培していた。飼料用などをJAに出荷し、残りは関東に住む親族に送ったばかり。「厳しい中で頑張ったのに。来年以降の保証はなく、どうしていくべきか」と空を見上げた。
 新たに再検査実施が決まった本宮市の稲作農家の男性も戸惑う。「こんなことなら、最初から全戸検査をしてほしかった。風評被害がまだ広がる」と県の検査態勢を批判した。
 放射線量の影響が少ない会津若松市。あいづ有機農法生産組合代表の農業横山幸喜さん(54)は「行政の検査態勢が甘かった。県外の消費者は、中・浜・会津の産地に関係なく福島県産米ととらえるだけに、本県のコメ全体への影響は計り知れず、憤りを覚える」と影響を危惧している。
 県内の生産農家の落胆の声にだれも応えるすべが見いだせなくなっている。

■電話鳴りやまず
 29日午前の県水田畑作課。職員は緊急会議や関係者への対応に追われた。「放射線量が高い地域。リスクはあると思っていたが...」。担当者は鳴りやまない電話に疲弊した様子でつぶやいた。
 県内全域で基準値超えがないことを確認したとして佐藤雄平知事は「安全」を宣言していた。JAや一部の市町村から検査点数の追加を求める声もあったが、県は「安全宣言」をしたから大丈夫-との立場を崩さなかった。しかし、汚染米が拡大したことで県は検査の範囲拡大に踏み切った。農家からは「遅きに失した」と批判も。担当者は「当初は検査機器も少なく全戸検査は無理だった。今からでも対象地域の安全をしっかり確保しなければ」と苦悩をにじませた。


「まるで茶番劇」 流通業界は独自に測定 消費者、不信募らす


■詳細な検査を
 10年以上桑折町の農家から直接コメを買い続けているという福島市の主婦古溝薫さん(54)は「これからも福島のコメを食べ続けるつもりなのに...」と表情を曇らせる。
 生産者を信頼している。だが、一緒に暮らす幼い3人の孫の安全はやはり気掛かりだ。県の安全宣言後に起きた今回の騒ぎ。「国や県はもっと詳細なコメの検査を実施すべきだった」と対応の甘さを指摘した。
 別の主婦(31)は4歳とゼロ歳の子どもへの影響を心配し、原発事故以降、本県産のコメや野菜を購入していない。国の暫定基準値は甘いと考え、信用していなかった。福島市大波地区や伊達市から基準値を超える放射性セシウムが検出され、不信感をさらに強めている。「子どもにはとても食べさせられない」と不満を募らせる。
 郡山市の男性会社員(46)は「県の検査は出荷ありきだったのでは...」と疑問を投げ掛ける。その上で「見込みの甘い検査がかえって不信感を増幅させた。県の安全宣言、その後のキャンペーンなどはまるで茶番劇だ」と痛烈に批判した。消費者の間に広がる不信感は、風評被害とともに大きな懸念材料になりつつある。

■店頭やHPで紹介
 流通業者の間では独自に放射線物質を測定する動きが活発化している。
 リオンドール(本社・会津若松市)が扱っている県内産の新米は会津産だけ。しかし、28日に伊達市旧小国村と旧月舘町のコメから暫定基準値超の放射性セシウムが検出されたことを知り、すぐに外部機関に検査を依頼した。担当者は「29日までに安全が確認できた。ホッとしたが、県はできる限り多く検査し、土壌の除染にも力を入れてほしい」と注文する。
 いちい(本社・福島市)は店頭に並べるコメや野菜、鮮魚・肉などをほぼ毎日検査し、検査結果を店頭やホームページで紹介している。担当者は「伊達市の事例は予測できた」という。県の検査の限界を感じている。「行政だけでなく、農家、流通、小売りも一体となってチェックする態勢をつくらないと、いつまでも風評被害は払拭(ふっしょく)できないのではないか」と指摘した。


【背景】
県は福島市大波地区の玄米から基準値超の放射性セシウムが検出されたことを受け、同地区で全袋検査を実施するとともに、緊急調査地域として福島、伊達、相馬、いわきの4市12地区で全戸検査を実施している。今回、新たに放射性セシウムが検出された伊達市の旧小国村では101戸119点、旧月舘町では6戸8点を調べた。旧小国村の2戸からは580、780ベクレルを検出。旧月舘町の1戸からは1050ベクレルを検出した。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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