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【コメ作付け制限】「土、生きがい返せ」 来春だめなのか 稲作やめるしか...農家苦悩

雪が降り積もった水田を不安げに見詰める男性。平成24年産米の作付けは制限される見通しだ=福島市・大波地区

 農水省が1キロ当たり500ベクレルの暫定基準値を超える放射性セシウムを含むコメが生産された地域で平成24年産米の作付け制限を実施する方針を示したことに対し、農家に諦めと憤りが広がった。今後、作付けが検討される100ベクレル超の地域にも不安が渦巻き、県は農家の生産意欲減退に危機感を募らせる。100ベクレル超のコメの買い上げ方針も示されたが、東京電力に全量買い上げを求めている二本松市などからは不満の声も上がる。

■再来年の保証は
 出荷が制限されている伊達市霊山町上小国の農業狗飼功さん(64)は「やはり作付けできなくなるのか...」とうつむいた。地区民有志でつくった「放射能からきれいな小国を取り戻す会」に加わり農耕地を中心に、市民自らが自分たちの手で線量を測り、マップを作成。今後は土壌調査をするなどして、営農に役立ててようと思っていた。
 「地域の人たちは豊かな自然の中で農業をし、生きがい、楽しみを感じてきた。それまで奪われるのか」。妻みよ子さん(63)の悲しみは深い。「見通しもなく、この先どうすればいいのか。この地で農業を続けて暮らしていけるのか」2人は寒さが募る中、新たな年へと希望が見いだせないでいる。
 福島市大波地区の農業の男性(68)は「来年の作付けを見送ったとして、再来年は必ず作付けできると保証できるのか」と憤る。再来年作付けしても、今年と同じように収穫してから出荷停止になる事態も頭をよぎる。
 「農家が自分の育てたコメを食べられないなんて」と唇をかむ。それでも作付け制限方針を受け止め、「来年1年で土壌や稲作に使う水質の調査をしっかり進めてほしい」と力を込めた。

■寝耳に水
 作付け制限が検討される1キロ当たり100ベクレル超500ベクレル以下のコメが生産された地域の農家の不安は大きい。
 県はモニタリング調査でコメから放射性セシウムが検出された29市町村(151旧市町村)の緊急調査を進めており、さらに100ベクレル超のコメが見つかる可能性もある。
 県の緊急調査で100ベクレルを超えるコメが見つかった本宮市の旧白岩村。今年、コシヒカリ約9トンを出荷した農家男性(65)は「もし、作付けを制限されれば、田んぼは荒れてしまい、再開するのは容易ではない」と制限方針に反対する。
 これまでの検査で自分が育てたコメは100ベクレル以下で安堵(あんど)していたが、寝耳に水の事態に「稲作をやめてしまう農家が増え、地域は大変なことになる」と危機感を強めた。
 福島市松川町水原地区にあたる旧水原村では、県の10月の本調査で104ベクレルのコメがあった。約半世紀にわたり農業を営む丹野幸雄さん(69)は平成24年の作付け制限も覚悟している。「収穫後に基準値超えのコメが見つかることが地域にとって一番の打撃だ」と表情を曇らせた。

■除染急いで
 「コメは本県の基幹農作物。作付け制限は農業県の基盤に大きな影響を与える」。作付け制限の面積が拡大する可能性が高い事態に県農林水産部の担当者は頭を抱える。
 県によると作付け制限の地域は損害賠償の対象になるが、1度耕作をやめてしまった農家が再び農業を始めるかは不透明だ。担当者は「営農意欲が減退してしまうのではないかと不安だ。早期に営農再開できるよう除染を急がなければならない」と声を振り絞った。
 JA新ふくしまの菅野孝志代表理事専務は、県が500ベクレル超のコメが見つかった水田以外で詳細な土壌調査を実施していないことを疑問視。「何の対策をせずに地域の水田の全てを作付け制限することには納得できない」と不満を口にする。
 また、稲が放射線物質を吸収する原因を調べる研究に与える影響も懸念する。「作付けを止めると、水田からどのようにセシウムが吸収されるか分からなくなる」と指摘した。

【背景】
 福島市大波地区で生産されたコメから国の暫定基準値(1キロ当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムが検出されて以降、福島、伊達、二本松の3市の8旧市町村で基準値を超えるコメが見つかり、出荷停止となっている。一般的な食品に含まれるセシウムの基準値は来年4月から1キロ当たり100ベクレルに厳格化される見通しで、コメは同9月30日まで経過措置が設けられる。農林水産省は新基準を踏まえ、来年の作付けの制限基準を検討していた。


【100ベクレル超買い上げ】「全量買い上げて」
今冬しのげても 二本松市、国の責任追及

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JA新ふくしまの福島北米倉庫に保管されている米袋。出荷できるかどうか確認が進められている

■調査と分析を
 国に暫定基準値を超えたコメだけでなく全量買い上げを求めている二本松市。27日、農林水産省の幹部から三保恵一市長に直接、方針についての連絡が入った。三保市長は「一定の前進と評価するが、出荷制限を受けた地域以外も影響は極めて深刻」とし、あらためて国の責任による全量買い上げを求めた。農水省幹部は「今後の市場の動向を見させてほしい」と答えたという。
 三保市長は平成24年産米の作付けについても「土壌の全筆検査を行い、科学的な調査と分析に基づいた対策を尽くした上で制限すべき」と訴えた。
 二本松市の農業三津間卓美さん(62)は買い上げ基準を妥当だと受け止めるが、「国は100ベクレル以下のコメが売れる体制を整え、それでも売れなかった分や価格下落分をしっかりと補償してほしい」と注文を付けた。

■貴重な収入に安堵
 JA新ふくしまの倉庫には出荷を止めているコメが山積みになっている。国が出荷相当額を支払う仕組みを整えることで解消が期待される。
 稲作と年金で生計を立てている福島市大波の農業八巻カツさん(69)はコメの買い上げの方針を知り、「貴重な収入になる」と胸をなで下ろした。ただ、1キロ当たり500ベクレルを超え買い上げされることは、平成24年産米の作付けを諦めることでもある。自家消費用にコメを購入しなければならない。「コメを買う費用も考慮して、買い上げの価格を決めてほしい」と訴えた。
 大波地区の60代の農業男性は「食品の放射性セシウムの基準値が100ベクレルに厳格化されることを考えると買い上げするのは当然」と話した。

■対応後手後手の農水省 大臣支持で「知恵」絞る
 農林水産省は、放射性セシウムに汚染されたコメの買い上げ策や、24年産米作付け制限に関する基本方針に基づき、農家の支援に万全を期す。
 食品に含まれるセシウムの基準値は来年4月から1キロ当たり500ベクレルから100ベクレルに厳格化される見通し。コメは同9月末まで経過措置が設けられる。しかし、県の「安全宣言」後に暫定基準値を上回るセシウムの検出が相次ぎ、同省の甘さが指摘されていた。
 鹿野道彦農相は「経過措置がある前提でなく、新基準値が発表された時点から、流通しないように取り組む」と強調。100ベクレル超のコメも農家単位で民間団体が買い上げることにした。
 買い上げは二本松市などが強く要望。農水省は当初「国が直接買い上げるのは法律上難しい」(生産局)としていたが、鹿野農相の「知恵を絞れ」という指示を受け、出荷代金に相当する金額を民間団体が農家に支払い、東京電力に賠償請求する仕組みを計画した。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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