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今を生きる 愛される酒 これからも 新たな蔵で再出発

被災した蔵から拠点を移し海外でも称賛される酒造りを誓う遊佐さん

■二本松・人気酒造 遊佐勇人社長
 タンクから漂う新酒の香り。くみあげた一杯を口に含み「よし、いい出来だ」とうなずいた。二本松市の人気酒造社長の遊佐勇人さん(46)は移転した新たな酒蔵から、再び多くの人々に愛される酒を送り出せる手応えを感じていた。

■イベントに出品 フランスで称賛
 3月11日、県のブランド認証に「人気一大吟醸」が選ばれ、県庁で表彰を受けた後、大地震に襲われた。二本松市に戻ると、蔵の中はタンクが壊れ、停電で仕込みも不可能な状態だった。さらに高台にある事務所の下にできた小さなひび割れが、度重なる余震などで広がり、土手が崩れる恐れも出た。
 「酒造りができる場所に移るしかない」と適地を探した。他県への移転を勧める人もいたが、二本松の名水にこだわった。元の蔵から西へ約6キロ離れた二本松市山田地内にある旧工場が候補に挙がった。安達太良山の伏流水の調査をすると、鉄分ゼロの理想的な仕込み水と分かった。
 さらに東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の不安に関しても、密閉された工場内の放射線量は古い蔵よりはるかに低かった。「放射性物質が酒造りに影響しないよう手を尽くした」
 10月に新たな拠点に移り、新酒の仕込みを始めたが、まだ福島の酒に対する風評が気になった。12月13、14の両日、フランスのパリで開かれた日本料理文化交流協会のイベントに招かれた。理事長で日本料理人の小山裕久氏とフレンチの神様ジョエル・ロブション氏が作る料理の宴で、一番初めに出される酒に選ばれた。トップシェフや国立料理学校の学生を集めた日本料理講習会でも試飲してもらった。
 「多くの皆さんに称賛され、心配していた風評は全く感じなかった。厳しい状況は続くが、本当にいいものを造ることに専念する」。原点に返っての再出発に迷いはなかった。

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