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【振興への駆け引き7】Jヴィレッジ建設申し出 増設の調査と同時に

東京電力福島第一原発事故の復旧作業の前線基地となっているJヴィレッジ。芝の上に砂利が敷かれ、駐車場などに使っている

 楢葉、広野両町にまたがるサッカー施設・Jヴィレッジは、東京電力福島第一原発事故以降、原発復旧作業の前線基地に変わった。一流選手がプレーしたピッチは芝の上に砂利が敷かれ、駐車場などに使われている。日本を代表するスポーツ施設の面影は今はない。

■秘密会談

 平成6年6月、県庁に訪ねてきた東電社員がこう告げた。「地域振興策としてサッカーのナショナル・トレーニングセンターを寄付させていただきたい。130億円規模になります」。県地域振興課長だった菅野純紘(67)=本宮市=は驚きを隠せなかった。
 東電側はセンターの完成予想図を机の上に広げ、日本サッカー協会からも協力が得られるよう話がついていると、付け加えた。
 前年、サッカーのJリーグが誕生し、サッカーへの関心が高まりつつあった。しかし、菅野はサッカーと地域振興がどう結び付くのか、すぐにはピンとこなかった。「よく考えてみる」と答えるのが精いっぱいだった。この申し出の裏側に別の動きがあるとは思いも寄らなかった。
 菅野は、東電と知事佐藤栄佐久との会談を設定した。東電社長荒木浩が7月初め、県庁隣にある知事公館をひそかに訪れた。
 菅野は会談に加わらなかった。控室にいた菅野に、立ち会った県幹部が驚いた表情で会談の様子を教えてくれた。
 荒木の話は、事務方が事前に聞いていた内容を超えていた。サッカーのナショナル・トレーニングセンターを浜通りに建設するとした上で、中通りにはサッカースタジアム、会津地方には美術館をそれぞれ造るという壮大な将来構想だった。「そこまで言うのか」。菅野は東電の思い切った提案内容に圧倒される思いがした。

■明治以来の供給

 荒木は「秘密会談」から2カ月近くたった8月22日、あらためて県庁を訪れた。知事室で佐藤にナショナル・トレーニングセンターの寄付を正式に申し出た。建設費を東電が負担し、完成後に県に引き渡す考えを示した。
 引き続き、荒木は記者会見に臨んだ。「明治以来、福島県には首都圏の電力供給でお世話になってきた。その恩返しをしたい。信頼関係をさらに高めるためにも地域振興に貢献する」
 5000人収容の観客席を持つスタジアムをはじめ、10面以上のグラウンド、屋内運動場、フィットネスジム、宿泊施設...。「日本で初めての施設になる」と胸を張った。
 かつて類を見ない規模の寄付だった。ただ、荒木の県庁訪問には、もう1つの目的があった。荒木は福島第一原発と広野火発を増設するために必要な環境影響調査を県に申し入れた。
 東電が同時進行で明らかにした寄付と増設-。東電は両者に関係はないことを今もなお強調する。県も当時、公式には、つながりを否定した。しかし「増設を進めるために地元対策を抱き合わせた"セット"だ」と批判が湧き上がった。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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