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【食品の放射性物質新基準】「福島の漁業消える」 65種捕れぬ恐れ メヒカリやホシガレイ...

簡易型放射性物質分析器でサンプルを調べる職員=小名浜機船底曳網漁協

 県内水産業は、食品に含まれる放射性物質の基準値厳格化に危機感を募らせる。新基準が導入されれば、現在検査している魚介類の4割超が基準を超える恐れがある。放射性物質の影響を懸念し、各漁協は原発事故から10カ月余にわたり操業自粛を続けており、27日に開かれた県漁協組合長会で2月の再開も断念した。「このままでは福島の漁業が消える」。漁協関係者は先を見通せない事態に悲痛な声を上げる。

■全体の45%
 週1回の割合で行われる県と国の魚介類の放射性物質検査では、本県沖で採れた147種を抽出検査してきた。コウナゴ、シラス、アイナメ、ドンコなど21種から基準値の1キロ当たり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出されている。
 基準が1キロ当たり100ベクレル超に引き下げられた場合、昨年4月7日から今年1月20日までに検査した魚介類で、放射性セシウムの値が基準を超えた魚種は【表】の通りとなる。新たに44種が基準値を超え、全体の45%に当たる65種が該当することになる。新たな基準を超える魚種の中には、メヒカリやホシガレイなど本県のブランド魚種も入っている。danmen120128b.jpg
 本県沖は黒潮と親潮がぶつかる潮目の海で多くの魚種が生息する良好な漁場とされる。しかし、水揚げできる魚種が限定されれば、漁業経営の採算が合わなくなる。県漁連幹部は「漁業を再開したところで、売れる魚が限られてしまい、商売が成り立たなくなる」と表情を曇らせる。
 小名浜機船底曳網漁協は、簡易型放射性物質分析器でサンプルを調べるなど試験操業に向けた準備を進める。漁協関係者は「食品の安全基準を厳しくするのはいいが、検査態勢充実や漁業再開に向けた支援をしてほしい」と国の支援を求める。

■再び拡散?
 県水産試験場は毎月1回、福島第一原発から半径20キロ圏外の沿岸部23地点で海水と海底土壌の放射性物質の調査を行っている。海水は検査機器の検出限界値未満となっている。海底土壌も昨年5月や6月と比べて平均で86%下がった。しかし、昨年12月末の検査では、いわき市四倉沖でセシウム134が495ベクレル、セシウム137が628ベクレルが検出されている。
 網を底に下ろして海底を引く底引き網漁が本県の沿岸漁業の主力となっており、海底土壌に堆積した放射性物質を拡散させるという懸念がある。「底引き網で泥や砂を巻き上げるのは海底から10メートルから20メートルの高さまでだろう」。県水産試験場の佐藤美智男漁場環境部長はこう分析し、魚介類への影響は限定的とみている。
 しかし、いわき市の仲買人は「底引き網漁で、放射性物質が再び拡散してしまうのではないか。いくら数値が低くても、放射性物質が検出された魚は売れない」とぼやく。相馬市の漁協関係者は「放射能問題はせっかく前を向いて進もうとしても、次から次に課題が出てきてしまう。出漁まではまだ長い道のりになりそうだ」と遠くを見つめた。
 県は比較的、海面近くに生息するシラスやコウナゴなど特定魚種について、県漁連に対し今春にも操業再開するよう求める考えだ。

【背景】
 厚生労働省は昨年12月、食品に含まれる放射性セシウムの新基準を公表した。年間の被ばく線量限度を現行の「年5ミリシーベルト」から「年1ミリシーベルト」に引き下げた。これにより、魚は1キロ当たり500ベクレル超から100ベクレル超に引き下げられる。4月1日に施行となる。県内の全6漁協は東京電力福島第一原発事故による放射性物質の拡散を受けて昨年3月から自主休漁を続けている。

水産業者に危機感 観光誘客にも影響

■余波
 例年なら冬の味覚アンコウやズワイガニが並び、多くの観光客らで活気づく、いわき市や相馬市の市場の人影はまばらだ。休漁の影響は、水産加工業者や運輸業者など関連業種にも及んでいる。
 「このままでは生き残ることは難しい。地域社会全体が沈没してしまう」。いわき市で水産加工業を営む小野利仁さん(54)は昨年、小名浜漁港周辺のみりん干しやかまぼこ製造者、製氷業者、冷凍倉庫業者、運輸業者など約60社と「いわき市産地水揚げ推進グループ」を作り、財政面で県に支援を訴える。
 小野さんによると、原発事故後、いわき市内では水産業者の3割が操業を中断したまま。冷凍施設の稼働率は全体の4割程度にとどまっているという。
 東京商工リサーチいわき支店は、現在の市内の倒産件数は例年並みだが、操業自粛が長引けば仲買人や水産物加工業の廃業や倒産が増えると分析する。
 昨年暮れには、小名浜の包装資材卸売業者が破産手続きに入った。地元の水産加工業者や漁協関係業者などに発泡スチロールなどの包装資材を販売してきたが、漁業再開の見通しが立たず事業を続けることができなくなったという。

■落ち込み
 海産物を売りにしてきた観光業への影響が深刻さを増している。いわき市平薄磯の塩屋埼灯台の近くでドライブイン「山六観光」は、例年に比べ売り上げが3割に落ち込んでいる。経営者の鈴木一好さん(60)は嘆く。「海産物が採れなければ客も来ない。いわきの観光業はお先真っ暗だ」
 毎年3万人ほどの観光客が詰めかける相馬市の松川浦の潮干狩り。相馬双葉漁協の関係者は、昨年に引き続き、今年も中止せざるを得ないとの見通しを示す。原発事故の風評被害が収まらず、人出が見込めないためだ。
 例年であれば4月から夏にかけてのシーズン中は、市内の民宿や鮮魚店はにぎわっていた。松川浦周辺の旅館経営者は「1度離れたお客さんを引き戻すことは極めて難しい。漁業の操業再開を含め、行政は対策を打ち出すべきだ」と求める。

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