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明日への提言 福島医大医学部 放射線健康管理学講座教授 大津留晶氏 長期的な見守り必要

 福島医大医学部の放射線健康管理学講座の大津留晶教授に原発事故から1年たつ県内の放射線量の現状や低線量被ばくとどう向き合うべきかなどについて聞いた。

 ―東京電力福島第一原発事故による県内の放射線量の状況は。

 「国際評価尺度(INES)の暫定評価で最悪の『レベル7』の大事故で、これだけの広範囲に放射性物質が飛散する状況は想定されていなかった。しかし、同じ評価のチェルノブイリ原発事故と比べれば、環境中に漏れた放射性物質の線量は十分の一と推測されている。避難や、飲食物の摂取制限が迅速に行われるなど、想定外の事態にも関わらず、最大限の努力で住民の被ばくは抑えられているとみている」

 ―それでも通常時の年間被ばく線量上限の1ミリシーベルトを超える住民もいる。

 「残念ながらほぼ全員が年1ミリシーベルト以下となるのは数年間は難しい状況だ。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告で、原発事故など『緊急時』には線量限度を年100~20ミリシーベルトに緩和できるとされており、国が昨年、目安にした年20ミリシーベルトには、ほとんどの人が達しないとみられている。年100ミリシーベルトより低い慢性被ばくに関しては、がんで亡くなるリスクが高まることは疫学的に証明されていない。科学的には現状の放射線量のリスクは極めて小さいといえる」

 ―県内の空間放射線量などに対し、不安を抱える県民は多い。

 「リスクをさらに抑えるためにも、余計な被ばくを受けないことは重要で、個人被ばく線量を下げる努力は続けるべきだ。原発事故前と比べれば、環境中に放射性物質が多く、放射線量が高いのは確かで、心配するのは当然だと思う。全ての人が科学的な説明だけで十分納得するのは難しい。一方で、健康リスクの小さい、わずかな被ばく線量すら気になって、限りなく事故前に近づけようと思う余り、日常生活が順調に送れなくなる人もいる。極度のストレスを抱えるなど、別のリスクを生むケースもあるとみられる」

 ―県民にどうやって安心してもらうのか。

 「福島医大は県から委託を受け、全県民対象の県民健康管理調査を実施している。事故後の初期の被ばく線量を、当時の行動記録などを基に把握する基本調査をはじめ、定期的な検診、0~18歳の子どもの甲状腺検査などを通して長期的に県民の健康を見守る仕組みだ。一部の結果が出ているが、現段階で一般住民に特に放射線健康リスクに注意すべきケースは確認されていない。被ばくの状況も、放射線に対する心配の度合いも県民それぞれ異なり、状況に応じたきめ細かな対応が必要だ」

 ―県民の要望を受け、県内自治体では内部被ばくを調べるホールボディーカウンターの導入が進んでいる。

 「検査機関ごとに努力はしているが、全般的には健康に問題のない低い放射線量の範囲での検査結果の誤差が課題となっている。ある程度の誤差は仕方がないが、日常生活の改善や長期的に健康を管理するためには、精度を高めていく努力が必要だ。測定結果を正しく分析し、検査を受けた人にきちんと説明できる医師の育成も課題となっている。講座の医局員を核に、県内の他の病院の医師にも知識や技術を広げたい」

 ―国に求めたいことは。

 「県や福島医大が取り組んでいる県民健康管理調査などに対し、財政支援や各種機関からの人材派遣などの対応をしっかりとやってほしい。また、緊急被ばく医療体制の充実や、県民健康管理調査のデータベースの有効活用には、国との連携が不可欠だ。10年、20年後に、福島県民が現在よりも健康に暮らせて良かったと言われるようにしたい。そのために県民の方々と一緒に頑張っていきたい」

●略歴●

 おおつる・あきら 長崎市出身。長崎大大学院医学研究科修了。内科医、長崎大医学部付属原爆後障害医療研究施設助手を経て平成15年から同大病院の永井隆記念国際ヒバクシャ医療センター准教授。昨年10月から現職。54歳。

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