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【ヨウ素剤配布】国指示前に避難拡大 いわき、三春 独自決断

三春町が40歳未満の町民に配布した安定ヨウ素剤

 東京電力福島第一原発事故による避難区域は原発から半径20キロ圏に拡大した。備蓄分だけでは足りず、県は新たに136万錠を確保した。しかし、国の服用指示が出たころには20キロ圏の住民はほとんど避難を終えていた。三春町といわき市も、国や県からの指示を待たずに住民への安定ヨウ素剤の配布に踏み切るなど、混乱の中で決断を迫られた。

■想定外
 「原発事故が起きた場合、避難が最優先。ヨウ素剤はあくまで補完的な役割のもので、備蓄量は十分だと思っていた」。東京電力福島第一原発事故の発生以前からヨウ素剤の備蓄に携わってきた県保健福祉部の職員は振り返る。
 しかし、原発事故による避難の規模は県の想定を超えていた。政府は昨年3月12日、福島第一原発から半径20キロ以内の住民に避難を指示した。県災害対策本部は重大性を踏まえ、同日から13日にかけて厚生労働省にヨウ素剤を緊急要請した。メーカーや卸業者を通じて新たに136万錠を確保し、福島第一原発から半径50キロ圏に位置する27市町村のうち、葛尾村を除く26市町村に15日ごろから配備を進めた。葛尾村は避難が他の市町村より早かったため村が「不要」と判断したという。
 国から服用指示が出ない中、県と政府の原子力災害現地対策本部は、配布や服用の方法を相談していた。「大人は1回2錠、13歳未満は1錠、幼児には砕いて飲ませる」「バスの中、避難所で配布」など対応を決め、政府からの服用指示に備えた。
 しかし、服用指示が出ない間に、原発周辺地域から住民の避難が広がり続けた。浜通りから中通り、会津へ-。住民が移動する様子が断片的に県災害対策本部に入ってきた。県保健福祉部のある職員は「いったいどう配るのか、見当がつかなくなっていた。悩んでいる間に住民の避難は終わっていた」と打ち明ける。

■「責任は町で」
 福島第一原発1、3号機で水素爆発が相次いだことを受け、三春町は3月14日午後11時、幹部十数人を保健センターに緊急招集した。「明日、東風が吹き雨も降る。ヨウ素剤を町民に配布したいが、みんなの意見を聞きたい」。深谷茂副町長(当時)が切り出した。
 「不安をあおるのではないか」「町民のためにはベストな選択を」。幹部からの意見が出そろい、深谷さんは告げた。「明日、配布しよう」
 鈴木義孝町長に電話で伝えると「判断を尊重する。責任は町で取るから」との答え。職員らが徹夜で封筒にヨウ素剤を詰めた。40歳未満の町民計7248人分の宛名を書き、服用の際の注意書きも同封した。
 翌15日朝、深谷さんは2号機圧力抑制プール付近が爆発し損傷した可能性があることをテレビで知った。すぐさま町長と相談、配布だけでなく服用も決定。防災無線で町民に呼び掛け、町内8カ所で町民に配布、服用を指示したのは同日午後一時ごろ。保健師らが立ち会った。
 決断に至るまで、町はヨウ素剤を配布するべきかを判断する材料を集めていた。
 事故後、町内の高台に吹き流しを設置し原発の方向から吹いてくる風を常に監視する態勢を整備。三春町に避難してきた原発立地町の大熊町職員から事故の状況を聞き、ヨウ素剤の使用に関するアドバイスに耳を傾けた。服用にはアレルギー反応など副作用の恐れもある。町の医師から命に関わる副作用がないと確認した。
 最終的に「放射性物質の拡散状況が分からず、大量放出の可能性を考えると手を打たざるを得ない」と判断、県にヨウ素剤の提供を要請した。
 鈴木町長は「混乱時は現場主義が一番。国や県の指示を待ったら何もできない。住民の安全を守るのは町だ」と強調した。

■回収せず
 県災害対策本部に3月15日、国から1本の電話が入った。「三春町が住民にヨウ素剤を配っているようだ」。担当職員は一瞬、耳を疑った。「飲んでも意味がない...」
 ヨウ素剤の効果の持続時間は1回につき24時間程度。大気中の放射性ヨウ素濃度が高い地域から低い地域へ避難する際に使えば、放射性ヨウ素の影響を回避することが期待できる。だが、避難せずに地域にとどまるケースでは、摂取しても効果は得にくい。
 「国の指示が出ていないし、副作用の懸念もある。配布をすぐやめるべきだ」。県災害対策本部は三春町に求めた。だが、三春町の担当者から「首長の決定で配布する。回収はしない」と回答を受けた。

■自己判断
 いわき市は平成11年の東海村のJCO臨界事故を受け、独自にヨウ素剤を備蓄していた。原発事故直後の3月18日は市職員や行政嘱託員が各戸を訪問し、「指示があるまで服用しないように」とする文書に加え、口頭でも指示した上で配布した。
 本来であれば国、県の服用指示を受けて配布することになっていた。しかし、原発が水素爆発を起こすなどの事態となっていたにもかかわらず、国や県からは何の連絡も入って来なかったため、市独自の判断で配布に踏み切った。いわき市に避難してきた原発周辺の住民がヨウ素剤の配布を受けていたことなども、判断材料にした。
 市保健所総務課医事薬事係によると、指示がないのに飲んでしまった市民については確認はとれていないが、「自己判断で飲んだ人もいる」という「うわさ」は入ってきたという。櫛田瑞弘係長は「飲まないことを周知した上で、自己判断で飲んでしまうのを防ぐのは困難」と話す。
 昨年3月に配布したヨウ素剤は昨年末で有効期限が切れたため、市は妊婦や40歳未満の市民約13万人を対象に再配布した。今年2月、簡易書留で郵送した。一部には国の「収束宣言」を理由に受け取りを拒否する世帯もあったという。

■副作用
 3月下旬に国がいわき市や川俣町、飯舘村で行った検査では、当時の住民の被ばく線量は高くても、「予測される甲状腺被ばく線量が100ミリシーベルト」とする服用の判断基準の半分程度だった。安定ヨウ素剤は100万人に数人程度、甲状腺の機能低下などの副作用が生じ、最悪では死に至るとされている。「副作用との均衡を考えると、飲ませた方が良かったかどうか、いまだに判断がつかない。微妙なところだった」。県保健福祉部の職員は悩ましい表情を浮かべる。

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