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【「前線基地」の苦悩10】抜け落ちた換気対策 ソフト面の改善優先

2日、報道陣に公開された大熊町のオフサイトセンター。鉄筋コンクリートの建物に目立った被害は見当たらないが、施設内での被ばくを低減できる換気設備がなかった

 「今になってみれば、オフサイトセンターにフィルターを設置していなかったのは痛恨だった。対処していれば、もう少し持ちこたえられたかもしれない」。経済産業省原子力安全・保安院の原子力発電検査課長、山本哲也は悔恨の言葉を口にした。
 山本は震災発生後、大熊町の原子力災害対策拠点・オフサイトセンターで、総括班の責任者を務めていた。東京電力福島第一原発事故で、センターは屋内、屋外ともに放射線量が一気に高くなった。センターには、屋内と屋外とを換気する際に、外部からの放射性物質を取り除く高性能のエアフィルターなどの設備がなかった。

■「設備までは...」
 「施設内における被ばく放射線量を低減するため、コンクリート壁の設置、換気設備の設置、その他の必要な措置が講じられていること」。原子力災害対策特措法(原災法)は施行規則で、オフサイトセンターの被ばく対策を定めている。
 コンクリートは比重と密度が大きくなるほど放射線が通り抜けにくくなる。大熊町のセンターは鉄筋コンクリート造りで、かなりの遮蔽(しゃへい)効果が期待できた。しかし、換気設備は抜け落ちていた。事故の約2年前の平成21年2月、総務省が勧告していた問題だった。
 「設備対策までは必要がない。人体が基準以上の放射線を浴びなくて済む対応手順を決めておけばよい」。原子力安全・保安院は設備などのハード面の強化よりも、センターに詰める関係者が状況に応じて対応するソフト面での運用改善を優先した。
 総務省の勧告後、オフサイトセンター運営要領が改められた。センター内で行う安定ヨウ素剤服用などの被ばく管理の手順が示された。50ミリシーベルト以上の被ばくが想定される場合にはセンターから退避すべきかどうかを判断する、とされた。
 「なお、センター内での放射線防護の考え方については、別に定める」との一文も盛り込まれた。総務省の勧告を踏まえたとみられる文言だった。
 原子力事故に対応する関係者の間では、センターの設備強化に対して、懐疑的な意見もあったことは事実だ。県生活環境部の幹部の1人はフィルター設置だけを取り上げる議論に疑問を抱く。「原発事故では、センターと、その周辺市町村が連携して対策を講じることになっていた。フィルター設置などによって、センターだけの放射線対策を強化しても、周辺の市町村から役所や住民が全て避難してしまっては、センターが現地に存在する意味がないと思った」
 大熊町のオフサイトセンターだけではなかった。原子力安全・保安院は当初、放射性物質が発電所敷地外の広い範囲に飛散することを考えていなかった。総務省が調査した全国の13センターのうち、原発から約8~10キロに設けられた国の防災対策重点地域(EPZ)内にある7カ所をみると、大熊町以外でも宮城、静岡、石川、愛媛各県のセンターにフィルターが設置されていなかった。設置していたのは、北海道電力泊原発から約2キロに位置する北海道共和町と、日本原燃の核燃料サイクル施設の近くにある青森県六ケ所村の施設だけだった。

■近づく限界
 つながりにくい電話、まともな食事や睡眠が取れない施設、そして、不完全な放射線への備え...。
 「もうここでの活動は限界だ」。政府の現地対策本部を大熊町のオフサイトセンターから別の場所に移す議論は避けられなかった。それは大熊町からの撤退を意味した。
 センターの運営要領には代替施設として南相馬市原町区の県南相馬合同庁舎が挙げられていた。しかし、第二のオフサイトセンターの役割を担うはずだった南相馬合同庁舎には、移転を受け入れられない事情があった。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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