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【「前線基地」の苦悩16】国、10キロ圏内を指示 重大事故「心配ない」

「半径3キロ避難」「10キロ退避」と記されたオフサイトセンターの地図。東電福島第一原発を中心に複数の同心円が書き込まれた

 原子力災害対策拠点・オフサイトセンターの設置場所の絞り込みに当たって、国から立地地域への最大の指示は「原発から10キロ圏内」だった。
 建設準備が始まった平成12年ごろ、国は原発などの原子力施設が立地する道県の担当者を東京に集め、会議を繰り返した。
 何度目かの会議に当時、本県の消防防災課主幹兼課長補佐だった西方薫(61)が出席した。西方は他県の担当者から質問が相次いだことを覚えている。「原発に飛行機が墜落したり、テロ攻撃を受けたりしたらどうするのか」。原発で重大な事故が起きた場合、放射性物質が放出される事態が予想される。10キロ圏内に設置されたセンターの活動に影響を与えないかを懸念する声だった。
 「そんなことは起こらないでしょう。心配ありませんよ」。道県の担当者が質問を繰り返しても、国側の回答は最後まで変わらなかった。

■近くてもいい
 本県と国とのやり取りは、その後も続いた。県は「原発から5キロでも3キロでもいいのか」と問い合わせた。国は「どれだけ近くてもいい。問題はない」と回答した。
 国の指示を受け、各道県はセンターの建設場所を用意した。北海道共和町にあるセンターは、北海道電力泊原発からわずか2キロしか離れていなかった。本県のセンターは東京電力福島第一原発から約5キロの県有地が選ばれた。
 「国は事故が発生しても、短時間で収束すると考えていたのではないか」。防災担当の幹部だった元県職員は推測している。
 大熊町のセンターは毎年行われた防災訓練で、拠点施設の1つとして使用された。最近の訓練は、発電所で使う全ての交流電源や原子炉を冷却する機能が失われることを想定した。ここまでは、福島第一原発事故で起きた事態と同じだ。しかし、訓練は、ディーゼル発電機の復旧によって、原子炉の冷却に成功し、事故が収束する、との内容だった。しかも、平成22年11月の訓練対象は福島第一原発5号機の1基だけだった。
 元県職員は「福島第一原発事故のような深刻な事故を想定していたとは、とても思えない」と厳しい表情で振り返った。
 今年1月、政府の事故調査・検証委員会は福島市で中間報告の説明会を開いた。委員を務める作家の柳田邦男は断じた。「放射能をまき散らすような災害が起き、その対策本部がわずか5キロしか離れていないとは一体、何なのか。素人でも分かること。専門家、行政の落とし穴といえるのではないか」

■批判への異論
 しかし、センターと原発との距離だけを取り上げて、福島第一原発事故の対応を批判する意見には異論もある。事故発生後にセンターに詰めた県職員は「センターが原発から遠く離れた場所に立地していれば、本当にいいのか」と疑問を抱く。放射性物質が漏れる事故が発生した場合、原発から離れ過ぎた場所からでは住民の避難、空間線量のモニタリングなどの緊急対応が取りにくくなる可能性があるからだ。
 原子力安全委員会は福島第一原発事故を教訓に、先月28日の作業部会で、センターと離れた場所に代替施設を確保する見直し案を示した。原発から離れた場所で事故対策の司令塔の役割を果たす「緊急時対応拠点」と、住民の避難誘導などに当たる「対策実行拠点」の2つに機能を分ける考え方だ。
 本県のセンターも事故発生前から、南相馬市の県南相馬合同庁舎を代替施設に挙げてはいた。だが、電話回線だけを見ても、深刻な原子力災害に対応できる満足な設備ではなかった。しかも、地震や津波などの「複合災害」の情報収集・連絡に使われ、センターを代替できない状況に追い込まれていた。
 原子力防災に関わってきた県の複数の担当者は、センターと代替施設の機能分担、代替施設の通信設備などを深く議論したという記憶はない。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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