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帰還/広野からの報告(35) 生産自粛で意欲減 未来信じ 耕地守る人も

コメ作り再開の日のために除草作業に取り組む芳賀さん

   例年ならトラクターで田起こしの時期だ。

 それなのに自分はいわき市の借り上げ住宅でこたつの中。「このままでは土地が荒れてしまう。作物を育て、食べる喜びを味わえないのが本当に悔しい」。震災前まで広野町で30アールほどコシヒカリを作ってきた男性(65)は声を落とす。肥料配分などにこだわり、質の高いコメを生産してきたという自負があるが、自分の田をしばらく見ていない。「放射能で汚染された土地ではコメを作る気になれない。菜の花の種でもまくか」と力なく語る。
 昨年11月から12月にかけて町内の農地120カ所で行われた放射性セシウムのモニタリング調査で、国が作付け制限する土壌の基準である1キロ当たり5000ベクレルという数値を超えた地点は無かった。一番高くても2600ベクレル、低い場所は100ベクレル程度だった。
 しかし町が昨年、試験栽培した玄米の一部から1キロ当たり100ベクレル以下という食品の新基準を超える137ベクレルが検出された。避難のため農地が適切に管理されていないこともあり、今年2月には平成24年産米の作付けについて生産者に自粛を要請した。
 今年、コメ作りは町内約40カ所に設ける試験ほ場で行うだけだ。結果は来年の作付けの判断材料になる。今週、試験栽培に関して町と農業者の話し合いが行われる。
 町の除染計画では今年末までに農地の除染完了を目指している。土壌を反転させて放射性物質が付着した表土を地中に閉じ込める反転耕や、放射性物質を吸着するゼオライトを表土にまいて浅く耕し、稲が放射性物質を吸収しにくくする方法などを検討している。だが、反転耕では土壌が変わって水が張れなくなる懸念があり、作業に必要な重機が入れない場所もある。町の担当者は「農地除染には確立された方法がまだないため、自信を持って説明できない」と不安を募らせる。
 農家の生産意欲の減退も大きな問題になりつつある。町は来年度の作付け自粛を要請する通知を全農家に発送したが、賠償に関する問い合わせが数件あっただけで、反応は乏しかった。
 ある農家は「町民は賠償金や自治体の施策ばかり頼りにして、自分の土地を守るという意識が薄れてきている」と語る。町内の農家約400戸のうち、大部分が兼業農家。先祖代々の土地を荒らさないよう、自宅で食べる分だけのコメや野菜を作っていた多くの農家の脳裏には「耕作放棄」の4字が浮かびつつあるという。

   一方で、農業再開に意欲を見せる生産者もいる。

 町農作業受託組合長で、町内の水田約60ヘクタールで田植えや収穫作業を請け負ってきた農業法人「フロンティアひろの」社長の芳賀吉幸さん(65)は「作付けができないことは残念だが、悲観している暇はない」と力強く語る。昨年10月から町内上浅見川の自宅に戻り、日々、農地に出ている。
 組合は昨年10月から町の委託で水田の除草作業に取り組んでいる。町の助成で大型トラクター4台を購入した。田に生い茂った雑草をそのままにすれば土地は荒れる一方だが、除草などの管理をしていれば作付けの再開は可能だ。
 「広野でコメ作りを再開できればそれが希望となって双葉郡の農業の未来を切り開ける。諦めるわけにはいかない」と芳賀さんは力を込める。地域の暮らしの柱となる農業再生に向けた取り組みが続く。

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