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【県内グリーン・ツーリズム】予約激減、存続の危機 街おこし遠のく 喜多方は春以降1件のみ

アスパラガスの畑を見詰め、子どもたちの笑顔に思いをはせる武藤さん

 東京電力福島第一原発事故の風評被害で、都市部から本県の農村部に人を招き交流する滞在型余暇活動「グリーン・ツーリズム」が深刻な打撃を受けている。先進地の喜多方市は平成22年度、学校関係で59校約9000人の児童・生徒を受け入れていたが、23年度はキャンセルが相次ぎ人数は10分の1に激減。さらに春以降の予約は20日現在、1校だけだ。存続の危機に直面している。県内で過疎化が進む街の活性化につながっていた事業だけに、関係者の落胆は大きい。受け入れ農家は「年間の栽培計画も立てられない」と悲鳴を上げている。

■線量問題ないのに
 「元気な子どものはしゃぎ声が、ぱったりと聞こえなくなった」。喜多方市熊倉町の農業武藤浩善さん(60)は雪の積もった畑をさみしそうに見詰め、子どもたちの笑顔を思い出していた。
 ビニールハウス14棟と畑約80アールでアスパラガス栽培などの体験を子どもたちに提供してきた。平成22年度には過去最高の30校の子どもたちが来てくれた。しかし、23年度は2校のみ。喜多方市の空間放射線量は0.1マイクロシーベルトを切っている。「放射線量は低く問題はないのに...」とため息が漏れる。
 喜多方市は豊かな観光資源を生かして平成12年からグリーン・ツーリズムのモデル事業を始めた。15年に全国の市で初めて「グリーン・ツーリズムのまち」を宣言。17年には全国交流大会を開催したほか、農家の取り組みを支援する「NPO法人グリーン・ツーリズムサポートセンター」を設置した。
 当初、受け入れ農家は十数軒だけだったが、今では110軒に増えている。
 震災後、センターや市の担当者が県内外の学校や教育委員会を訪れ、喜多方の安全性を訴えた。しかし、反応は鈍かった。ある私立大の系列校では「放射線の心配がある福島での事業は大学のイメージに影響する」とも言われたという。
 事業には、市を挙げて取り組み、街おこしにもつなげてきた。市の担当者は「このままでは、これまでやってきたこと全てが消えてしまう」と危機感を強める。

■計画が立たない
 喜多方市で農泊施設「喜多蔵」を営む皆川健一さん(63)は民間企業を定年退職後、平成22年春から農泊を始めた。約3500万円をかけ、蔵4棟を改修・新築した。40代からの夢。コツコツ積み立ててきた貯金や退職金をつぎ込んだ。最初の年は合わせて30校350人が「農泊」し、順調な滑り出しだった。しかし、先が見えなくなった。「実際に来てもらえれば何も問題ないと分かるはず」と悔しさをにじませた。
 毎年3月までに策定する年間栽培計画は、農業体験による作業も想定してスケジュールを組み、生産量などを決めるようになっている。体験者数が見通せない状況に、市内の農家の1人は「計画の立てようがない。作付面積は減らすべきなのか」と苦悩する。
 市内では主にグリーン・ツーリズムで生計を立てている農家も増えていた。「このままでは受け入れをやめる人も出てくるのではないか」と地域農業の衰退を懸念した。

■新たな模索
 学校関係の誘致が難しい中で、新たな試みも始まった。県内唯一のグリーン・ツーリズム専門の受け入れ機関であるNPO法人喜多方市グリーン・ツーリズムサポートセンターは、首都圏の一般観光客にターゲットを広げる。今月末に首都圏の旅行業者を招くモニターツアーを実施するほか、市と協定を結ぶ東京都中野区で、住民が市内の特産物を通信販売で購入できるパンフレットを配布する計画だ。
 さらに、26日には約10軒の農家で、年間を通して楽しめる大人向けの綿栽培体験事業「喜多方めんこいくらぶ」を発足させる。単発の体験ではなく、オーナー制度を取り、年間を通した誘客を目指す。
 ただし、風評が残る中で、どの程度の参加者を維持できるかは不透明だ。同センター理事長で「喜多方めんこいくらぶ」会長に就任する予定の山内健一さん(63)は「子どもが戻ってこないと厳しいことに変わりはない」と本音を漏らす。

■他地域でも
 南会津町の南会津農村生活体験推進協議会もグリーン・ツーリズム事業に力を入れてきた。しかし、震災発生後、原発事故の風評被害で首都圏などの18校がキャンセルしてきた。23年度に受け入れたのは関東地方の小中学校計2校だけだった。24年度は3校が実施予定だが、さらなる上積みは難しい。
 グリーン・ツーリズム事業と提携することが多い県外の学校からの教育旅行も激減している。県観光交流課によると、前年度から8、9割減っているという。担当者は「教育旅行の行き先は、保護者全員の同意が必要。しかも、2年前には決めるケースが多い。すぐに状況が変わるとは思えない」と指摘している。

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【背景】
 県内では喜多方市をはじめ各地でグリーン・ツーリズムへの取り組みが行われている。平成25年度から子どもに農業体験などをさせる国の「子ども農山漁村交流プロジェクト」の受け入れ団体として名乗りを上げている団体だけでも17あり、これまで農泊や体験活動などを展開してきた。喜多方市は農家に泊まって農村体験をする「農泊」を県内で初めて実施するなど、県内のグリーン・ツーリズムのけん引役を果たしてきた。同市を訪れた学校数と交流人口の推移は【表】の通り。23年度分は東日本大震災後に約50校、7573人の予約が全てキャンセルとなった。

カテゴリー:3・11大震災・断面

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