東日本大震災アーカイブ

県のメール容量不足 SPEEDIデータ消去

県災害対策本部に設置されているSPEEDIの専用端末。震災当時は緊急回線が寸断され機能しなかった=23日

 東京電力福島第一原発事故後、県にメール送信された「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」の試算データが消去されていた問題で、職員に割り当てられたメールの受信容量は25メガバイトと、20~50通程度しか受信できなかったことが23日、分かった。SPEEDIの受信容量を把握しておらず、想定外の事態に対応し切れなかった格好だ。メールを削除する際のバックアップ体制を含め、情報管理の不備が浮き彫りとなった。

■2日でいっぱい
 県によると、SPEEDIを運用する原子力安全技術センター(NUSTEC)から受信した試算データのメールは、1通当たり約0・5~1メガバイトだった。当時、試算データは30分から1時間ごとに送信されており、職員用アドレスで受信すると、2日ほどで容量いっぱいになる計算だ。
 震災発生当時、県には試算データだけでなく、さまざまな情報を伝えるメールが各方面から殺到した。震災直後の昨年3月14日、県は非常事態に対応するため、災害対応に当たる部局用アドレスに限って受信容量を50メガバイトから2倍の100メガバイトに増やした。しかし、職員用アドレスにまで手が回らず、職員用が50メガバイトに引き上げられたのは約2カ月後の5月22日だった。
 県は平成13年に本格的なネットワークシステム「うつくしま世界樹」を構築。システムの更新に合わせて個人用アドレスの容量も増やしてきた。さらに容量を増やすにはサーバーを新しくする必要があるが、数千万円もの費用が掛かるという。情報システム課は「予算面を考えると、すぐの対応は難しい。数年後のシステムの更新に合わせるしかない」と悩ましげに話す。

■落とし穴
 SPEEDIのデータは県庁の原子力安全対策課内の専用端末に届くことになっていた。しかし、震災当時は回線が寸断されて機能せず、災害対策本部が災害対策課のアドレスに送信するようNUSTECに依頼した。未曽有の災害で膨れ上がった業務を少しでも迅速に処理するため、受信したメールは担当する職員二人にそれぞれ転送された。その後、原子力安全対策課のアドレスにもNUSTECからメールが届くようにし、同じ二人の職員に転送された。だが、転送メールの原本もほとんどが消去されたとみられている。
 県はSPEEDIのデータ受信に関する訓練を毎年数回、実施していた。ただ、専用端末があったため、受信データのサイズが認識されることはなかった。「そもそも緊急回線が寸断されると考えたことがない。職員に割り当てられた個人アドレスで試算データを受信することも想定していなかった」。県災害対策本部の担当者は明かす。

■現場混乱
 メール受信を担当していた職員二人は、殺到するメールの受信容量を確保するため、過去のメールを削除した。満杯になると、受信できなくなる仕組みになっていたためだ。
 県の文書等管理規則では、重要と認められるメールや画像などは保存または印刷して関係者に回覧し、情報を共有するよう定められている。県の内部調査では21通がUSBメモリーにコピーされていたほか、印刷物として残されていたことを確認した。
 しかし、震災対応で現場は混乱を極めていた。残りのメールが同様に保存、印刷されていたのかは不明だ。文書法務課は「規則が理解されていない部分があれば、見直しが必要」としている。