東日本大震災アーカイブ

【震災関連死(中)】避難者孤立深まる 近隣関係築けず 市町村の対策限界

男性がよく足を運んだ仮設住宅。県内の仮設住宅では住民同士のつながりをいかに守るかが課題となっている=福島市南矢野目

 「もう避難先には戻りたくない」。警戒区域の浪江町に一時帰宅し、自宅と経営するスーパー近くの倉庫で自殺したとみられる自営業の男性(62)は、家族や周囲に漏らしていたという。避難生活が長期化する中、望郷の念を強くする被災者の帰宅はかなわない。避難住民に寄り添う市町村には1人1人への目配りに限界感がにじむ。

■つながり薄く

 「長年にわたって築き上げた地域のつながりが崩れてしまいそうだ」。会津美里町の仮設住宅に避難している楢葉町民を支援している会津美里町の関係者は仮設住宅の避難住民の現状を打ち明けた。
 仮設住宅には原則的に古里が同じ住民が入居する。しかし、顔なじみの世帯が仮設住宅でも隣り合わせになるとは限らない。たわいもない会話、悩みの相談...。当たり前にできていたことができなくなり、避難者は孤立感を深めている。関係者は「町民同士といっても初対面のケースもある。簡単に"お隣さん"の関係にはならない」とコミュニティーの崩壊を心配する。
 自殺したとみられる自営業の男性が生前、よく足を運んでいた福島市南矢野目の仮設住宅。同郷の男性の死に接し、寂しさが漂う。60代女性は「ここでの生活は本当に1日1日が長く感じる」と力なく語った。
 「いっそ『賠償はしっかりする。その代わり町にはもう帰れない』と言い切ってもらった方が(古里への)諦めがつく」と国に注文を付けた後、本音を漏らした。「早く古里に帰りたい」
 原発事故の避難者を支援している、ある県警幹部は嘆く。「住民と古里は離れたまま。いつ戻れるかも分からない。今度は人と人、心と心まで離れていくのではないか」と危機感を募らせる。

■人手足りない

 浪江町の生活支援課長の中田喜久さん(56)は「全世帯を同じように見守るのは難しい」と実情を訴える。
 町は避難先で町民の各世帯を訪問し、生活支援などをしているが、75歳以上の高齢者世帯や小さな子どものいる家庭が中心。担当の保健師や生活支援員の数は限られ、特に広範囲に散らばっている借り上げ住宅を全て網羅して回るのは極めて困難だ。
 現在、いわき市と福島市で外部団体に借り上げ住宅を訪問してもらう準備を進める。来月早々にも町の各部局で自殺防止を含む住民支援対策をあらためて検討する。一方で中田さんは「生活の先行きを示せない以上、悩みを根本的に悩みを解決するのは難しい」と打ち明けた。
 行政として住民個人の心の問題にどこまで踏み込んでいけるかも難しい。富岡町は心のケアに関する相談会や町民同士の交流会などを随時開催しているが、担当者は「集まりに出掛けてこられる人はまだいい。問題は人知れず悩んでいる人。しかし、町民全員に個人的なことを聞いて回るわけにもいかない」と行政として対応の限界を語った。

■連絡体制に課題

 政府の原子力災害対策本部は一時帰宅中の避難者が自殺したことを「全くの想定外」と受け止めている。
 これまでに一時帰宅中に行方不明なったケースはなかった。対策本部は立ち入りの際に各車両にトランシーバー1台を配布するほか、携帯電話を持っている場合は番号を聞き、緊急時に連絡できる体制を取っている。さらに巡回バスによる見回りもしている。
 しかし、今回、死を選んだとみられる男性は携帯電話を所持していなかったという。ある担当者は「携帯電話を持っていない人とは連絡の取りようがない」と打ち明ける。別行動を取る際には、必ず連絡が取れるようにするよう呼び掛けることぐらいしか対応策を見いだせずにいる。

■県警 警備会社に"見守り"委託

 県警本部は仮設住宅の見守り活動を強化するため、6月1日から民間警備会社「アサヒガード」(本社・郡山市)に防犯パトロールを委託する。来年3月末までの10カ月間にわたり、犯罪抑止をはじめ積極的な声掛けで避難者の孤立化の防止、安否確認に力を入れる。
 民間パトロール員は県内22署のうち、管内に仮設住宅がある15署に各2人を配置し、土・日曜、祝日を除く平日に8時間にわたり巡回するという。県警生活安全部の小泉義勝参事官は「県警も仮設住宅の安心・安全の向上に向けて寄り添い続ける」と話している。出動式を1日午前9時半から福島北署で行う。

カテゴリー:3.11大震災・断面