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【安全への問い掛け23】トラブル隠しに怒り 国、東電への信頼崩れる

トラブル隠しの発覚で、記者会見する川手副知事(左)=平成14年8月29日

 県エネルギー政策検討会の議論は「中間とりまとめ」に向けて、大詰めを迎えていた。平成14年8月29日夕。検討会の事務局を受け持つ県企画調整部の部長、菊地俊彦(66)は出張先から県庁に戻った。「記者会見があるらしい」。知り合いの新聞記者から知らされた。
 菊地には、会見があることさえ、まだ伝わっていなかった。会見の内容は、検討会の議論の行方はもちろん、原子力に対する県の姿勢に大きな影響を与える前代未聞の「トラブル隠し」だった。
 国から県に連絡が入ったのは午後5時すぎだった。「ファクスを送る」との電話だけで、内容の説明はなかった。「国の原子力政策に一切、協力できない」。その日夜、県庁で記者会見した副知事の川手晃は顔を紅潮させて怒りをあらわにした。
 経済産業省原子力安全・保安院の発表は、本県に立地する東京電力の原発の点検記録に改ざんや不正の疑いが見つかった、との内容だった。福島第一原発や福島第二原発などの自主点検で、ひび割れなどのトラブル29件を見つけながら、放置したり、修理記録を改ざんしたりしていた。
 東京都内の東電本社で、社長の南直哉が謝罪の記者会見を開いた。「地元にお願いできる状況ではない」。福島第一原発と柏崎刈羽原発(新潟県)で予定していたプルサーマル計画の年内実施を見送る方針を明らかにした。

■内部告発
 事の始まりは1通の手紙だった。
 平成12年7月、通産省(現経産省)に内部告発の文書が届いた。差出人は福島第一原発などの点検作業を行っていた米国企業の元社員。茨城県東海村のJCO臨界事故を教訓に国が設けた、内部申告奨励制度の第1号だった。
 文書は半年後の13年1月に発足した経産省原子力安全・保安院に引き継がれた。だが、告発内容の調査はなかなか進まなかった。その理由には「状況把握までに時間がかかった」「内部告発者は米国在住で、身分に配慮しながら調査した」「東電の協力が得られず、難航した」などが挙げられた。
 「国は申告情報を入手していたにもかかわらず、地元に対しては2年余りにわたって何の連絡・報告もせず、突然に公表した」。県は国の責任を追及した。

■情報の根拠
 「われわれは一体、県民に何を説明してきたのだろうか」。企画調整部長を最後に県を退職した小山昭(70)は、がくぜんとした。かつて、原発の安全対策を担う県原子力安全対策課長を務めた。企画調整部長のときはエネルギー政策検討会にも関わった。
 小山は、原発立地地域で開いた住民への説明会などで、国や東電のデータを手元に置きながら原発の安全性などについて答えてきた。「われわれが県民に伝えてきた情報の大本が間違っていたなんて...」
 原発立地地域の住民からも怒りや失望の声が上がった。福島第一原発の増設を要望してきた双葉町長の岩本忠夫は「1日にして信頼が総崩れとなった。プルサーマルや増設に口を開くことができなくなった」と厳しく受け止めた。同じく福島第一原発が立地する大熊町長の志賀秀朗は「詳細な説明を申し入れたい」と語った。
 トラブル隠しは、翌年4月、本県と新潟県に立地する東電の原発が全て停止する事態を招いた。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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