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再編/小高からの報告(46)農業再開に高い壁 冠水、がれき、線量に悩む

南相馬市小高区の沿岸部には冠水した土地が広がっている。かつて豊かな水田だった面影はない

 濁り水に夏草が茂り、コンクリートの破片がのぞく。
 かつて一面に水田が広がっていた南相馬市小高区の沿岸部は約767ヘクタールが津波で被災し、このうち約180ヘクタールが現在も冠水したままだ。
 沿岸部の農地の多くは干拓地。市内の旧警戒区域に8カ所計18台あった農業用水の排水ポンプで毎分3042トンの排水量を誇っていたが、津波で全て被災した。現在は小高区の1カ所だけが仮復旧し毎分60トンを排水している。地震で1メートルほど地盤沈下した土地は雨が続くと水がたまり、排水が追い付かない。
 「行政に頼るだけでは何も進まない。先は見えなくてもやれることからやらなくちゃ」。小高区の津波被災農家による「ふるさと小高区地域農業復興組合」の組合長、佐藤良一さん(59)は営農再開を誓う。組合は冠水している農地を除く約587ヘクタールでがれきの撤去や、簡単な水路と農道の補修に取り組む予定だ。だが、農地で拾い集めたがれきの仮置き場が確保されず、約130人の組合員の中には作業による被ばくを気にする声もある。
 沿岸部の農業再開に立ちはだかるのは冠水した農地の問題だが、山側に近い農地での悩みは放射性セシウムだ。市は今年2、3月、市内の旧警戒区域と旧計画的避難区域の農地で土壌1キロ当たりの放射性セシウムを調べた。小高区で最も高い数値は水田が大富地区の1万1408ベクレル、畑が川房地区の1万5003ベクレルでいずれも山側の土地だった。
 水稲の作付けは市内全域で見合わせているが、営農再開に向けて今年は市内134カ所計15・3ヘクタールで試験的に作付けしている。小高区では7カ所計1・3ヘクタールの試験田で栽培している。市の担当者は「国による除染が終了し、避難区域が解除された時、果たしてどれだけの農家が生産意欲を持ち続けているだろうか」と将来を不安視する。

 農業用水の確保にも厳しい現実がある。
 小高区をはじめ、浪江町、双葉町の計3525ヘクタールの農地に農業用水を供給してきた大柿ダムは浪江町北西の警戒区域内にある。東日本大震災の地震で一部に亀裂が入ったため、1950万トンの総貯水量のうち、現在は維持管理のため必要な300万トンの貯水にとどめている。
 周辺の放射線量は平均で毎時20マイクロシーベルト。土壌では最大1キロ当たり34万ベクレルの放射性セシウムが検出された。高い放射線量のため、被災状況の本格的な調査や復旧作業が行われておらず、県は防災上の観点から早急な復旧を国に求めている。県の担当者は「取水施設から取り込むダム湖の水面近くの水からは放射性物質が検出されていない。用水路の整備など課題は山積するが、営農再開に向けてダムを活用する道はあるはず」と考えている。
 小高区内約3300世帯の農家の多くは兼業で、市内外に避難を続ける農家の中には農地を手放すことを決めた人もいる。一方で農業再生を目指し、農業法人や特定農業団体の統合に向けた話し合いが始まっている。
 これらの中には、ほ場整備による大規模農場の経営、大豆生産によるバイオエネルギー事業、再生可能エネルギーと連携した植物工場の運営など農業再生に向けた構想を持つグループもある。「ふるさと小高区地域農業復興組合」の佐藤さんは「理想を現実にしていくのは容易ではないが、まだ古里に戻ることを諦めていない仲間はいる」と意欲の結集を目指している。

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