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両親思い競艇選手に 実家津波被害「勝って家贈る」 90倍の難関突破

11月のデビュー戦での活躍を誓う寺島さん

■新地出身 寺島吉彦さん 26
 新地町出身の寺島吉彦さん(26)=専修大、相馬高卒=は11月、競艇選手として東京都のボートレース多摩川でデビューする。選手養成学校を目指していた昨年3月、東日本大震災による津波が新地町の実家を襲った。両親が避難生活を余儀なくされる中、昨年6月に倍率90倍を超える難関の養成学校の入試を突破。1年に及ぶ厳しい訓練を経て今月、卒業した。「レースで勝って、つらい思いをしている両親の力になりたい」。家族愛を胸に、厳しい勝負の世界に挑む。

 震災発生から間もない昨年4月上旬、自宅のある東京都内から新地町に戻った寺島さんは、変わり果てた古里を前に立ち尽くした。JR新地駅近くの実家は土台だけになった。2階部分が逆さまに転がっていた。
 父成信さん(60)と母節子さん(58)は相馬市内のホテルに避難していた。約20年前に苦労して購入した家を失い、心細そうにしている両親の姿が痛々しかった。「長男の自分がしっかりしなければ」。自分が家を建て直すと心の中で誓った。
 情報通信会社で働きながら競艇選手を目指していた。既に選手養成学校の試験に3回挑んだが、夢はかなわなかった。「もう不合格は許されない」。都内の自宅に戻り、すぐにトレーニングを再開した。勤務後、約10キロのランニングを毎日続けた。筋肉トレーニングで基礎体力も強化した。2カ月後に行われた養成学校の試験で見事、合格を果たした。
 しかし、昨年10月からの養成学校の生活は想像以上に過酷だった。外出も自由にできない。1人、また1人と同期生が脱落した。耐えきれず、全てを投げ出しそうになった。そんな時、新地町の借り上げ住宅で暮らす母から手紙が届いた。「学校から送られた成績を見ました。よく頑張っているようで、安心しました。けがをしないよう気を付けて」。自分を気遣う文面を繰り返し読むうち涙が頬を伝った。「両親はもっとつらい思いで暮らしているのに...。ここで諦めるわけにはいかない」
 今月13日に福岡県で行われた養成学校の卒業記念競走には両親が応援に駆け付けた。寺島さんは卒業生26人中、3位に入った。「苦労している両親を少しでも助けるため、本番のレースでも結果を出す。勝っていつの日か家を贈りたい」。表彰台の上で自分に言い聞かせた。

カテゴリー:連載・再起

選手養成学校のレースで激しい争いを繰り広げる寺島さん

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