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【巨大津波 遅れた対策10】国と東電、課題は認識 「仮想」と抜本策 先送り

 「あくまで仮想的な事例に対する勉強だと認識していた」。東京電力の原子力・立地本部原子力品質・安全部長の福田俊彦(54)は、ある勉強会を振り返った。
 「溢水(いっすい)勉強会」-。津波などによって、原子力発電所の敷地や建屋の内部に水が溢(あふ)れた場合に、発電所の施設にどのような事態が起きるかを探る目的だった。

■海外のトラブル
 勉強会を設置したのは、原発の安全規制を担当する原子力安全・保安院と、原子力安全基盤機構(JNES)だった。機構は独立行政法人で、原子力施設などの検査、設計に関する安全性の解析・評価などを担当している。
 勉強会は、平成18年1月から7月にかけて開かれた。東日本大震災から5年前に当たる。国内の原発に想定外の大津波が襲来したと仮定し、発電所の施設が耐えられるのかを検討することが狙いだった。
 2年前の平成16年に発生したスマトラ沖地震によって、インドの原子力発電所で海水ポンプが浸水したトラブルが理由の1つだ。東電などの電力会社はオブザーバーの立場で参加した。
 勉強会は「発電所の敷地の高さより1メートル上まで、無限時間、浸水する」と仮定した。代表プラントの1つに福島第一原発5号機を選び、浸水の影響をシミュレーションした。
 「タービン建屋の大物搬入口などから海水が流入し、電源設備の機能を喪失する可能性がある」。その結果は、東日本大震災の巨大津波により壊滅的な被害を受けた福島第一原発の姿と重なる内容だった。

■権威
 東電は当時、土木学会が出した評価手法を基に、津波を最大5.7メートル(最終的に6.1メートル)と見込んでいた。「振り返ってみれば対応は不十分と言われるかもしれない。津波が原発敷地高さの10メートルを超えることを考えていなかった」。福田は当時の津波評価方法に信頼を寄せていた東電の姿勢を説明する。
 ただ、非常用海水ポンプは、予測される津波の高さよりも低い4メートルの場所にあった。このため、東電はポンプの電動機のかさ上げなどの対策を既に済ませ、その後も改善の検討を続けていた。
 「土木学会の評価手法による津波の高さは、実際に起きるとみられる津波よりも高く設定されている。敷地はさらにその上にあるため問題はない」。勉強会の「仮想結果」に、東電や国の関係者が切迫した危機感を抱く雰囲気はなかった。抜本的な津波対策は先送りされた形となった。
 今月12日に東電社内の作業チーム「原子力改革特別タスクフォース」がまとめた報告には、その反省が盛り込まれた。「土木学会の評価手法に過度に依存した。経営層は、実際の対策を講じるためには土木学会の評価(権威)を重視した」と記した。

■危機管理
 東電は社内事故調査委員会の報告書の資料で、溢水勉強会の検討結果に触れている。「溢水勉強会の結果は、保安院から指摘されて気付くような知見ではない。設計上想定していない場所に浸水を仮定すれば、当然の結果として機能を失うものと認識していた。現実の津波の可能性などを考慮せずに勉強として影響を確認したものにすぎない」
 あくまで仮定に基づく「勉強」であり「現実的ではない」との見解だった。
 これに対して、国会の事故調査委員会は「科学的に詳細な予測はできなくても、可能性が否定できない危険な自然現象は、リスクマネジメントの対象として経営で扱われなければならない」と危機管理の甘さを指摘した。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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