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【県内の私立幼稚園経営】賠償一部棚上げ苦境 除染、屋内施設の整備費増 園児戻らず危機感

今年8月に屋内用の砂場を設けたエムポリアム幼稚園。園児が楽しそうに砂遊びをしている

 中通りを中心とした私立幼稚園の経営が厳しさを増している。東京電力福島第一原発事故による園児減少などに伴う損害賠償は今月、最初の請求分の支払いが始まったが、園舎除染など追加で掛かった費用の賠償は棚上げされ、今後、対象になるかどうかも現段階では未定だ。比較的放射線量の高い都市部の幼稚園は屋内活動のための施設整備を進めている。しかし、「減少した園児数が戻らない上に経費が膨れ上がり、経営が成り立たない」と悲鳴が上がっている。

■安全最優先
 郡山市のエムポリアム幼稚園の園舎内に夢中で砂遊びをする園児の声が響く。8月に約800万円を掛けて屋内用の砂遊び場を設置した。園庭の砂場は放射性物質が心配で使えない。「砂遊びは五感を育むためにも欠かせない」。園関係者は効果を強調する。
 同市のみどり幼稚園は今年度内に園舎2階の会議室を改築し、160平方メートル程度の屋内遊戯室を新設する計画だ。原発事故の影響で屋外活動を自粛しており、現在の遊戯室だけでは狭くて園児を十分に運動させられないと判断した。費用は約7000万円を見込み、平栗裕治理事長・園長は「園児の安全、教育が最優先。苦しい出費だが、仕方がない」と厳しい表情を浮かべる。
 福島市のめばえ幼稚園は約500万円で購入した園庭の木製アスレチック設備が除染できない素材のため廃棄する。屋外活動を再開しており、代わりを購入する必要があるが、費用の捻出が課題だ。
 放射線量を心配し屋外で十分運動できない幼稚園は、園児の体力低下も懸念する。7月に1日30分に限って屋外活動を再開した郡山市のある幼稚園では、屋外に出た園児がすぐ転んだり、走り方がぎこちなかったりするのが目に付くという。園長は「屋内でも思い切り運動できるような対策を講じなければ」と危機感を募らせる。

■ダブルパンチ
 比較的放射線量が高い郡山市や福島市などでは県外などに避難している家族が依然少なくない。原発事故から1年7カ月が経過しても園児数が戻らないことに経営者は頭を悩ませている。
 幼稚園に通う長女(6つ)がいる郡山市の主婦(36)は「幼稚園で安心できる環境を整えてもらえなければ、親は安心できない」と指摘する。
 郡山市のセントポール幼稚園の三宅哲理事長は、空きが目立つ園のげた箱を見回し、ため息をついた。例年は70人程度はいる園児数は現在37人。定員は100人で、元来の少子化傾向に加えてダブルパンチだ。「以前の園児数に戻るまでにはまだ、だいぶ時間がかかるだろう」との見方を示す。

■支払い始まったが
 17日、県内103園でつくる私立幼稚園関係原子力損害対策協議会と東京電力の交渉が福島市で行われた。「追加で支出した分も早く認めてほしい」。幼稚園経営者が東電側に迫った。
 協議会は今年1月、第一期の昨年3月11日から同8月末までの賠償として、92園分の約6億9500万円を請求した。だが、支払いが始まったのは今月上旬で、調整が付いた59園分の約1億1800万円だけだ。
 要求項目のうち入園辞退・退園による保育料減少や預かり保育料、用品売り上げの減収分など、部分的にしか認められなかった。放射線量を下げるための樹木の伐採や空調機器設置、放射線測定器購入などの新たな支出についての賠償も請求していたが、結論は先送りされている。
 最近進めている屋内の砂場や遊具の整備、放射線の心配のない地域への遠征活動などの費用は俎上(そじょう)にさえ上っていないのが実情だ。
 自治体の判断で施設整備の予算が確保できる公立と比べ、私立幼稚園の財政基盤は弱く、原発事故の影響は経営を直撃する。十分な賠償が実現しなければ、経営難に陥るケースが出る可能性もある。
 協議会長の関章信県全私立幼稚園協会理事長は「収入減分だけの賠償では不十分。いち早く元の教育環境を取り戻すのは東京電力の責任だ」と怒りをあらわにする。
 福島大人間発達文化学類の大宮勇雄教授(幼児教育・保育)も「放射能から子どもを守るだけでは足りない。十分な環境を取り戻すことが重要」として除染などの費用を東京電力などが責任を持って負担するよう求めている。

【背景】
 県によると、県内の私立幼稚園は休園中の一園を含む147園。園児数は今年5月1日現在で1万6566人で、平成22年同期の1万9194人と比べ2628人減った。一方、公立も含めた全園児は今年同期が2万5283人で、22年同期の3万26人より4743人少ない。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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