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【コメ全袋検査の遅れ】中小酒蔵 商機が... 年末年始、売り上げの3割 「死活問題だ」

本来ならば、新米の袋が数多く積まれる倉庫。今は空っぽの状態=19日、郡山市の渡辺酒造本店

 新酒が並ぶ12月から年明けは、県内の中小規模の酒蔵にとって年間売り上げの3割近くを占める大きな商機だ。「このままでは死活問題だ」。酒米の仕入れの遅れにより苦境に立たされる県内の酒蔵。安全のため独自に実施している放射性物質検査がさらに仕込みを遅らせる結果を生み、新酒製造のめどは立たない。今年はやむを得ず県産米を諦め県外産を使う酒蔵も出てきた。

■じっと我慢
 「いつもなら、ここに新米の袋が積まれているはずなのに...。書き入れ時に新酒ができていないなんて」
 日本酒「雪小町」を製造する郡山市の渡辺酒造本店・渡辺康広社長(47)は、空っぽの倉庫に目線を落とした。
 例年、新酒が出来上がる年末年始の売り上げは各酒蔵とも年間の2割から3割を占めるという。渡辺酒造は今年秋の鑑評会で吟醸、純米の2部門で知事賞を受けていただけに、新酒の売り上げ増を期待していた。
 昨年酒米が届いたのは、10月初旬。例年、10月半ばには新酒の仕込みに入っているが、今年は全袋検査が導入されることが予想されたため、早くから動いていた。しかし、入荷は11月初旬と言われたという。
 自家水田で酒米も収穫したが、検査が終わらず、使えない。新酒を年内に販売するのは難しい状況だ。「県産米にこだわりやってきた。じっと我慢するしかないのか」と、こぶしを握った。
 会津にも影響は及んでいる。「会津中将」で知られる会津若松市の鶴乃江酒造は「新酒は年内ぎりぎりになってしまうかもしれない」と気をもむ。新米が届くのは例年に比べ、2週間ほど遅れているという。「初しぼり」として毎年出す新酒が年末年始の定番商品。「年内でも最も販売数が伸びる時期に出せないのは厳しい」と話している。

■安心のため...
 県酒造協同組合は昨年の風評被害の払拭(ふっしょく)を目指し、国や県が行うコメの放射性物資検査に加え、独自に基準値を1キロ当たり10ベクレル以下に設定し検査を行っている。検査がさらに仕込み時期を遅らせることになるが、「消費者に安心してもらうためには必要」とする。
 必要な酒米を確保できない恐れも出ている。同組合によると各酒蔵から注文を受けた4万トンのうち、500トンほどのめどが立っていないという。震災前、酒米「チヨニシキ」「まいひめ」などは浜通りなどで主に生産されていた。原発事故により、作付面積が減ったことが原因とされる。昨年も不足していたが、国が備蓄米で工面した。組合は「蔵元に生産調整を依頼する事態になる可能性もある」としている。

■ジレンマ
 「輸送費などがかさむデメリットもあるが、年内に新酒が出せなければ収入が大きく減る」。県北地方のある酒蔵は新酒製造を12月に間に合わせるため、やむを得ず北海道のコメを注文した。苦渋の選択だった。
 昨年は風評被害を受け、今年は新米検査の遅れに伴う予想以上の経費増にダブルパンチを受けた状況だ。
 本県産米を使用し、風評被害にあえぐ本県農業を支えたい気持ちもある。しかし、検査を待っていれば、酒蔵経営にも影響を及ぼしかねない。「今回は許してもらうしかない」とぽつりと語った。

カテゴリー:3.11大震災・断面

仕込みを待つ酒蔵。10月半ばを過ぎてもがらんとしたままだ=19日、郡山市の渡辺酒造本店

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