東日本大震災

「あなたを忘れない」アーカイブ

  • Check

スタンド経営、元漁師の父 長女の成人待ちわびた妻

■相馬市原釜 高橋一男さん(73) 由美子さん(44)
 震災当日、一男さんと長男政普(まさのぶ)さん(49)、政普さんの妻由美子さんは、自宅から600メートルほど離れたガソリンスタンドにいた。漁師だった一男さんが昭和51年に開業し、家族で営んでいた。
 「大きな揺れだった」。燃料を運んできたタンクローリーの運転手と政普さん、由美子さんの3人が話していると、しばらくして津波が押し寄せた。3人は急いでタンクローリーに登った。一男さんがいた事務所に戻ろうとしたが、押し寄せる波はタンクローリーごと3人を流し、そのまま隣の理髪店にぶつかった。
 3人は理髪店の屋根に登ったが、店も流された。政普さんは浮いていたがれきにつかまった。由美子さんと運転手は距離がどんどん離れていった。「何かにつかまっていろ」。政普さんはスタンドから50メートルほど離れたスーパーの倉庫の雨どいにつかまり、由美子さんに呼び掛けた。返事は何度か聞こえた。辺りが暗くなったころには聞こえなくなった。
 由美子さんは5日後に、倉庫から北に100メートルほど離れた場所で発見された。一男さんは2日後にスタンドから数10メートル離れた側溝で見つかった。
 政普さんと由美子さんは友人の紹介がきっかけで結婚した。長男と長女、次男の3人の子宝に恵まれた。スタンドは月に2日しか休まなかった。由美子さんは文句の一つも言わずに働いた。長男と次男の野球の応援に行くのが好きで、球場ではひときわ大きな声を出していた。来年成人式を迎える長女の晴れ姿を誰よりも楽しみにしていた。
 一男さんは底引き網の漁師だったが、将来を見据えてガソリンスタンドを開店させた。火力発電所などの法人も相手に商売を軌道に乗せた。漁師気質の頑固な性格だった。一方で、人付き合いを大切にし、常連客には、店の裏で取れた野菜や日干しの魚を配った。温泉旅行が好きで、妻の文子さん(72)を連れ、仕事仲間と一緒に会津地方や新潟県、青森県に足を延ばした。
 政普さんは由美子さんについて「結婚するときに『苦労をかけるかもしれない』と言った。それでも構わないと、ついてきてくれたのに...」と込み上げる思いを口にした。

カテゴリー:あなたを忘れない

「あなたを忘れない」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧