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【20キロ圏の商工会】 小売業再開2割 避難先、定着に壁 顧客の確保 不透明

サンプラザで買い物を楽しむ浪江町民

 東京電力福島第一原発から20キロ圏内にかかる楢葉、富岡、葛尾、大熊、双葉、浪江、小高(南相馬市)の7商工会の会員事業所のうち、避難先などで事業所を再開したのは4割にとどまることが、県商工会連合会のまとめで分かった。中でも、小売業は2割しか再開できていない。新たな土地で顧客が確保できるか不透明で、再開に二の足を踏むケースも。関係者からは「地域コミュニティーが戻らなければ商売にならない」と悲痛な声が上がっている。

■大型バス運行
 総合小売業のマツバヤ(本社・浪江町)が田村市船引町の商業施設「ふねひきパーク」に再開した「サンプラザ」。10日午前10時ごろ、大型バスで19人が買い物に訪れ、従業員から出迎えを受けた。多くは本宮市の恵向仮設住宅などに避難している浪江町民だ。利用客の1人、丹伊田幸子さん(81)は「時間をかけて足を運んででも、顔を知っている人の店で買いたい」と話す。衣料品などが並ぶ店内で2時間ほど買い物し、座布団カバーなどを購入した。
 マツバヤは昨年10月から県の買い物利便性向上支援事業委託業務の助成を受け、避難者向けの無料送迎を始めた。月5、6回のペースで県内の仮設住宅との間で大型バスを運行し、毎回30~40人が利用している。
 ただ、松原茂社長(52)は「事業再開当初は原発事故前からのお客に支えられていたが、いつまでも浪江町のお客さんだけに頼っているわけにはいかない」と打ち明ける。地元の田村市内でいかに顧客を獲得できるかに今後の経営がかかっている。実際、今では地元客の売上の比率の方が上回っている。
 地元客の取り込みのため、商品の価格帯を安く設定するなどしているが、その分は経営に響く。「以前のように定着するまでにはまだまだ長い時間がかかる」と現状を口にした。

■再開に二の足
 「震災後も店内の釣り具はそのまま。戻れることなら、もう一度商売がしたい...」。大熊町の秋本正夫さん(73)は、雪が積もる会津若松市の仮設住宅で遠い古里を思い浮かべた。
 平成12年に消防職員を定年退職し、先立たれた妻の君江さん=当時(60)=が営んでいた釣具店を引き継いだ。さおや餌が並ぶ15坪ほどの売り場で、客と釣りの話をすることが楽しみだった。「高齢であることもあって新しい土地で一から商売を始めるのは大変。身の振り方を考えなければ」と話した。
 楢葉町で酒店を営んでいた小松岳生さん(56)は、町に戻って再開させることを願うが除染が進まない現状に「かつてのようには人が戻らない」とみている。現在、家族といわき市に避難しているが、新たな投資をしてまで避難先で再開させる気にはなれない。「普通の会社員であれば、あと数年で定年退職。今から店を出すには勇気がいる」とうつむいた。
 福島大うつくしまふくしま未来支援センターで産業・復興計画を担当する初沢敏生教授(51)は「小規模事業者は経営面のダメージが大きい。加えて住民が分散し、顧客が確保できないままでの再開はハードルが高い」と分析する。

■分散が障害
 「地域住民との関係の中でやってきた店ばかり。失ったものは賠償金だけで解決できるわけではない」。浪江町商工会の原田雄一会長(63)は小売業の再開が進まない要因を指摘する。
 祖父の代から80年以上続けてきた時計店は休業中だ。原発事故前は従業員8人を抱えていたが、みな県内外に散り散りになった。自身も二本松市に避難する。「以前のような商売をまた始めるにはコミュニティーを取り戻す必要がある。分散型で避難している状況では到底再開は難しい」と訴える。
 町商工会は会員の賠償手続きの支援や訪問相談などを行っている。7商工会全体で会員数は増加傾向にあるが、県商工会連合会の担当者は「建設業や製造業などは取引先がある程度、見込めるが、小売業は新しい土地での顧客の確保が難しい。財物賠償などがまとまった段階でどれだけ再開する事業所があるのか」と不安を抱く。
 轡田倉治会長(70)も「震災から間もなく2年。会員の事業意欲が低下していないか心配だ。もし、会員数が減れば、商工会として成り立たなくなる懸念もある」と語った。

【背景】
 県商工会連合会によると、東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内にかかる楢葉、富岡、葛尾、大熊、双葉、浪江、小高(南相馬市)の7商工会の会員事業所の再開率の推移は、今年1月20日現在、全業種の再開率は39・9%。業種別にみると、最低は小売業の21・2%で、最高は建設業の63・8%だった。1月20日現在の7商工会ごとの会員事業所数と再開事業所数、再開率は、会員数が621と最多の浪江町商工会の再開率は27・8%で、7商工会の中で最も低い。

カテゴリー:3.11大震災・断面

バスから降りて店内に向かう=10日、田村市船引町

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