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【国策への異議11】安全性判断に限界も 原告「司法逃げたのか」

 控訴棄却は、原告の住民にとって予想していた範囲内だった。平成2年3月20日午後1時半すぎ。仙台高裁101号法廷に、裁判長の静かな声が響いた。
 続けて、裁判長は判決理由を読み上げた。その途中に、原告や傍聴者の大きな注目を集めた部分があった。「原子爆弾を落とされた唯一の国であるから、国民が原子力と聞けば、猛烈な拒否反応を起こすのはもっともである」
 直後、裁判長の口から出た言葉は、誰もが予想していなかった。法廷はどよめいた。「しかし、反対ばかりしていないで落ち着いて考える必要がある」として、原発が果たす役割などを示した。原告団にとっては、たしなめられたような言い回しだった。弁護団長の安田純治(81)は一瞬、耳を疑った。「『頭を冷やせ』ってことか。われわれの活動を何だと思っているのか。ふざけている」。安田は法廷で憤慨した。

■変わらない判決
 福島原発訴訟の原告団は一審の福島地裁で請求棄却の判決を受けてもなお、仙台高裁で闘いを続けた。二審は昭和61年のチェルノブイリ原発事故後、初の司法判断として、国内外から注目された。
 県内では、昭和63年暮れからトラブルが相次いだ東京電力福島第二原発3号機で、原子炉再循環ポンプに異常が発生した。調査の結果、金属片などが原子炉圧力容器に流入する重大なトラブルだったことが判明した。
 だが、司法が下した2度目の結論も、政府の安全審査を追認する形となった。

■設計と現実
 原告団事務局長の早川篤雄(73)らは冷静だった。「当時は、既に司法に対して失望していた。チェルノブイリ事故があったが、われわれの裁判の判決が覆るような期待は抱かなかった」と振り返る。
 裁判で原告は原発の安全性について追及しようとした。しかし、仙台高裁の判決は「原子炉の設置許可は、国が原子炉の安全性に関する専門技術的裁量をもって判断する。国が設置許可を出したことには違法性がない」とした。
 一方で、判決は「本件原発(福島第二原発)は、基本設計において安全性が確保されていると認めたが、現実に建設、運転されている原発が安全性を有しているかは別問題」と言及した。
 さらに、裁判長は「破損してしまうような再循環ポンプを製造してはならない。チェルノブイリ原発の運転員のような間違いを犯してはならない」と指摘し、原発の運転などに当たって安全性確保を求める異例の説示を加えた。
 原告団長の小野田三蔵(75)は判決を聞き終わった後に思った。「裁判所は原発そのものが安全か、危険かの判断から逃げたのではないか」
 「司法が原発の安全性を証明したわけではない」。原告団と弁護団は、司法の最終判断を最高裁に求めた。

■全員一致
 平成4年10月29日、最高裁第一小法廷は「設置許可は適法」として請求を退けた一審、二審判決を支持し、住民側の上告を棄却した。5人の裁判官全員一致の意見だった。
 裁判長は争点だった安全審査の対象について「設置許可の段階の安全審査は原子炉の基本設計に限られ、安全性にかかわる事柄のすべてを対象にすべきではない」との判断を示した。
 原子力の専門家の審査や、行政の決定を踏まえ、審査の基準などに不合理な点がないかどうかを確かめるのが司法の大きな役割と受け止められた判決だった。
 福島地裁、仙台高裁、最高裁のそれぞれの判断は、原発などの高度な科学技術や、その安全性の検証を委ねられた司法にとって、一定の限界があることもうかがわせた。(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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