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【国策への異議16】司法判断分かれる 差し止め認めても自戒

 東日本大震災の揺れは関西地方にも及んだ。
 大阪市は震度3を記録した。大阪高裁の民事第一部裁判官室はビルの13階にあり、震度の数字以上の激しい揺れに見舞われた。
 判事の井戸謙一(58)は、報道で宮城県沖が震源と知り、同県に立地する東北電力女川原発への懸念が脳裏をよぎった。
 東京電力福島第一原発の緊急事態を知ったのは自宅に帰った後だった。テレビにくぎ付けになった。「翌日、福島第一原発1号機が爆発した時、まさか水素爆発だとは思わなかった」
 「首都圏から関西の方まで放射能が襲ってくるのではないか」。チェルノブイリ原発事故の放射性物質拡散のデータを日本に当てはめると、「関西地方も、ひとごとではない」と感じた。
 携帯電話で妻と子ども3人にメールを送った。「大変な事故が起こった。どう生きていくかを自分で考えるように」

■志賀原発
 福島第一原発事故から5年前の平成18年3月。井戸は金沢地裁に勤務していた。石川県にある北陸電力志賀原発2号機の運転差し止めをめぐる訴訟の裁判長だった。
 原告は住民ら135人、被告は北陸電力。井戸は判決で原告の訴えを認めた。昭和30年代に日本に初めて原子炉が導入されて以来、原発に対して、司法が出した初めての運転差し止めの判断だった。
 判決は、地震による事故で許容限度を超えた被ばくの恐れがあるとして、原子炉から最大約700キロ離れた熊本県をはじめ、本県を含む16都府県の原告全ての請求を認めた。
 井戸は判決で「地震が起きた場合、被告が構築した多重防護が有効に機能することは考えられない」と地震による事故の可能性を認めた。さらに「想定を超えた地震によって周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険があると推認すべきだ」と指摘し、「放射性物質が放出された場合、周辺住民の人格権侵害の具体的危険は受忍限度を超えている」と結論付けた。

■逆転
 全国初の原発運転差し止めの判決から約3年後の平成21年3月、控訴審の判決が名古屋高裁金沢支部であった。裁判長は「原子炉の耐震性は妥当」として、一審判決を取り消し、住民側の請求を棄却した。
 裁判長は「活断層や、地震動の評価は妥当で、能登半島地震や新潟県中越沖地震の影響に照らしても、事故により住民らが被ばくする具体的危険性は認められない」と指摘した。
 住民側は上告したが、22年10月28日、最高裁第一小法廷は「(憲法違反などの)上告理由に当たらない」としただけで、判断は示さずに上告を退けた。福島第一原発事故が起きる4カ月余り前だった。

■弁護士登録
 井戸は退官後、弁護士に登録し、滋賀県彦根市に事務所を設けている。福島第一原発事故で関西地方に避難した人の相談にも携わっている。
 事故から2年を迎えようとしている中で、自らが出した運転差し止めの判決について、自戒を込めて振り返る。
 「原発で事故が起こる可能性が考えられたので、差し止めの判決を出した。ただ、その可能性は何%か、ごくわずかだと思っていた。しかし、たとえ低い可能性でも、もし事故が起これば、甚大な被害を及ぼすのだという意識が判決当時、まだ足りなかった。感覚が甘かったと思い知らされた」(文中敬称略)

カテゴリー:3.11大震災・福島と原発

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