東日本大震災アーカイブ

【県外移転双葉町役場あすいわきへ】 身近に職員「心強い」 学校再開、絆の維持課題

あすから業務を開始する、いわき市の双葉町役場いわき事務所

 東京電力福島第一原発事故に伴い、埼玉県加須(かぞ)市に役場機能を構えた双葉町は17日、いわき市に新設した仮庁舎で業務を開始する。県外移転から2年3カ月を経て、復興に向けた大きな一歩を踏み出す。町民の利便性向上や町外コミュニティー(仮の町)形成の推進など期待は高まる。一方、小中学校の再開、避難を続ける町民の絆の維持など課題も抱える。

■安心感
 県内に避難している双葉町民のうち、いわき市には約4割に当たる最多の1522人が暮らす。同市の南台仮設住宅の自治会長を務める農業斉藤宗一さん(63)は仮庁舎での業務開始を待ち望む。
 現在、県内の役場支所は郡山市のみ。今後は印鑑証明書の取得などの各種手続きで加須市の役場や支所に出向く負担が軽減される上、避難生活の相談も容易にできる。「職員が身近にいれば安心感にもつながる。心強い」
 町は復興計画で、いわき市を仮の町のメーン拠点に位置付ける。仮の町整備に向け、町と市、県、政府による協議が本格化する。町職員は「災害公営住宅整備に向けた、市や県との調整なども円滑にできる」とし、県内への「役場帰還」の意義を強調した。

■時間の重み
 町は県外移転などの影響で、双葉郡8町村で唯一、小中学校を再開できていなかった。町は役場の県内帰還を契機にコミュニティーの象徴である学校を再開させたい考えだ。
 ただ、課題もある。長期避難の中で、児童生徒が他の学校になじんだり、保護者が就職したりしたため、どれだけ子どもが戻るか見通せないという。
 「学校がいつ再開するか分からない。高校受験を見据えて県内に戻るか、このまま残るべきか...」。栃木県那須塩原市に避難する主婦(39)は、来春に中学生になる長男を思い複雑な心境を吐露する。
 町によると、避難がなければ双葉町立の学校に通っていた小学生は4月末時点で348人、中学生は166人。しかし、それぞれの約半数が県外の学校に在学している。
 「将来を担う子どもを町の学校で育てたい。どうすれば子どもを戻せるのだろうか」。町関係者は苦悩する。

■異例の対応
 埼玉県は加須市の旧県立騎西高に残る双葉町の避難住民が、一定の地域内で一緒に暮らせるよう支援策の検討を始めた。住環境を他県が提供するという「異例の対応」(県関係者)だ。
 「埼玉県民と仲良くなった。ここにずっと住みたい」。加須市の民間借り上げ住宅で暮らす農業林一栄さん(76)が打ち明ける。町民の一部で埼玉県内への災害公営住宅建設を求めて町に署名を提出した。町は「県の判断」とし、県は明確な態度は示していない。
 ただ、県外避難の長期化と住環境の充実に不安を抱く町関係者もいる。「県外の定住化が進み、県内への帰還が鈍るのではないか」とみるからだ。

■温度差
 町は役場の県内帰還で双葉郡町村との連携が緊密になり復興が加速するのを期待する。
 ただ、同じ双葉郡でも、避難区域の再編で既に住民帰還や事業再開の動きが活発な町村もあれば、長期間にわたり帰還できない区域が広がる町村もある。
 国や県への要望でも町村の足並みがそろわない懸念があるという。さらに、除染を進める上で欠かせない中間貯蔵施設整備をめぐっても立地候補地とそれ以外の町村の住民には意識の隔たりがある。
 双葉郡内の復興担当者の1人は「町村が抱える課題はまちまち。町村の温度差によって復興の歩みが止まらないようにしないといけない」と指摘した。

■背景
 双葉町は平成23年3月、東京電力福島第一原発事故により川俣町、埼玉県のさいたま市を経て加須市の旧騎西高へと役場ごと避難した。6月5日現在、県内避難者は3778人。いわき市の1522人が最多で、郡山市の759人、福島市の430人と続く。県外避難者は3136人で、最多は埼玉県の1039人。

カテゴリー:3.11大震災・断面