東京電力福島第一原発事故に伴い、双葉町の警戒区域が帰還困難、避難指示解除準備の2区域に再編されてから28日で1カ月を迎える。いわき市の町いわき事務所に役場機能を移転し、初の議会に臨んだ議員らは26日、「復興の足掛かりができた」と受け止めた。帰還困難区域での環境省のモデル除染が9月にも始まり、町外コミュニティー「仮の町」の受け入れ自治体との協議も動きだした。ただ、復興の拠点となる避難指示解除準備区域の復旧は手付かずのままだ。
■一歩前進
26日、いわき市の町いわき事務所で開会した双葉町の6月定例議会。伊沢史朗町長が約1カ月前に施行された避難区域の再編について報告すると、ある町議は目を閉じたまま何度もうなずいた。
県内に役場機能を移して初となる議会初日を終え、「いわきに役場が移ったことで古里に戻る足掛かりができた。行政当局と帰還に向けて進まなければならない」と前を見据えた。
町住民生活課によると、再編後、町民から帰還に向けた相談はない。担当者は「原発廃炉の取り組みや除染作業が進むまで、町民の帰還への意識は高まらないのではないか」と指摘する。ただ、いわきに役場機能が移り、町との距離は近くなった。「帰還を望む町民の思いに応えられるよう県や双葉郡内の町村の担当者と連携を密にしていきたい」と肝に銘じた。
■結果に注目
環境省は25日、帰還困難区域にある双葉厚生病院と、ふたば幼稚園の2カ所で9月にもモデル除染を始めると発表した。
発表から一夜明けた26日、町住民生活課の担当者は「国が新技術を導入し、除染してくれるはず」と期待を込めた。町役場など主要施設は帰還困難区域にある。線量の低減は、帰還の大きな鍵を握る。「年内にも示される除染結果に注目したい」と話した。
いわき市で避難生活を送っている斉藤宗一さん(63)は原発事故前は、町内でホウレンソウを栽培していた。「町に戻ってまた農業をするために、除染は大事」と訴える。
町民が生活する町外コミュニティー(仮の町)の設置も重要課題だ。町復興推進課は「古里に帰還する日まで町民同士が絆を守り、一方で、各地域に溶け込んで生活できるようにすることが必要」としている。
同課は、町民アンケートなどを基に、災害公営住宅は数100戸必要とみており、設置についての検討を加速させる。県や関係自治体と連携し、住宅に転居時から地域と交流できるような支援策も検討する考えだ。
町は町復興まちづくり計画で、いわき市をメーン候補、郡山、南相馬を第2、第3拠点と位置付けている。既に、いわき市とは他の自治体と共に協議を始めた。今後、郡山、南相馬両市とも協議する予定だ。
■拠点手付かず
町内の避難指示解除準備区域は、町の復興の拠点となる。だが、上下水道や道路などのインフラは、東日本大震災による津波で被害を受けており、がれきも多く残っている。
町は役場機能の引っ越し作業に追われ、再編後、同区域の詳細な現状把握ができていないのが実情だ。町住民生活課の担当者は「インフラ整備は専門家に現地を見てもらわなければならず、これからの作業。いわきに来たことで加速させたい」と区域内の地図を見詰めた。
役場機能があるいわき市から避難指示解除準備区域に行くには、6号国道を通り、一度、町内を通過し、浪江町側から入ることになり、時間がかかるのも課題となっている。
同区域に自宅があり、市内で生活する80代の女性は何度か一時帰宅をしている。「自宅のある区域は離れ小島のよう。再編されても、いつ戻って生活できるのか...」と嘆いた。
【背景】
双葉町は5月28日、地域の大部分の線量に応じて帰還困難(年間積算放射線量50ミリシーベルト超)と避難指示解除準備(同20ミリシーベルト以下)の2区域に再編された。人口は帰還困難が全体の96%、約6270人、避難指示解除準備が町北東部の両竹、中野、中浜の3地域で計250人となっている。
(カテゴリー:3.11大震災・断面)