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アワビ漁 浜の光に 1日、3年ぶり稚貝放流 静岡で成育ゼロから復活期す

放流するアワビの稚貝を手に笑顔を見せる大和田さん(右)

■県栽培漁業協会 大和田淳郎さん(53)

 本県アワビ漁再開の光に-。アワビの稚貝が1日、いわき市の近海に放流される。県内では3年ぶりだ。県栽培漁業協会の職員、大和田淳郎さん(53)=福島市出身=らが、静岡県内の施設で昨年3月から稚貝を育ててきた。大熊町にあった協会の施設は東日本大震災の津波にのまれて全壊し、職員5人が犠牲となった。栽培施設を失いゼロからのスタートだったが、期待に応えるかのように稚貝は順調に育った。大和田さんは、小さな貝に本県主力品種再生への願いを託している。
 大和田さんは県栽培漁業協会でアワビの栽培を担当していた。震災当日は、翌日の作業に備え午後2時に早退していたため難を逃れたが、同僚ら5人が命を落とした。
 事務所は流され、職員も避難でばらばらになった。生産拠点が失われ、大和田さんは自宅待機となった。「協会は存続できるのか」。先行きが分からない不安に襲われた。それでも努力は惜しまなかった。北海道や青森のアワビ栽培施設を訪ねては事業再開へのヒントを探してきた。
 昨年2月、水産庁の種苗放流支援事業により、稚貝栽培の再開が決まった。静岡県の水産総合研究センター南伊豆庁舎を借りることになった。
 ただ、同庁舎にアワビ栽培のための設備はなかった。専用の水槽などを新たに設置した。静岡と本県沖は海水の環境が異なる。水温管理など手探りの中での作業だったが、苦にならなかった。事業を続けられる喜びがあった。そして「亡くなった仲間たちの分まで自分がやらねば」という思いが支えになった。震災後に大和田さんが足を運んだ他県の栽培関係者からの助言もあり、稚貝はしっかりと育った。
 今月中旬、放流を予定しているいわき市の漁業者が静岡県にアワビの成育状況を見に来た。「これからもよろしく」。稚貝栽培への期待が寄せられ、苦労が無駄ではなかったと感じた。
 県の放射性物質検査で、本県沖のアワビからは放射性セシウムがほとんど検出されていない。現在、漁は自粛しているが、放流される稚貝2万個が採取に適した大きさになる約4年後には漁が始まっていると信じている。
 稚貝の放流は当初、今月19日を予定していたが、海況が悪く見送りになった。27日も漁業者の判断で延期した。稚貝が無事に生き残るためには放流直後の環境が最も重要だ。延期の判断に「1個でも無駄にしたくない」という漁業者の熱い思いを感じた。
 秋の放流に向けて静岡で栽培中の3万個の稚貝の成育を確認するため、1日の放流を待たずに静岡に戻る。「元気に育てよ」。本県漁業の光となる"子どもたち"に心の中で声を掛けた。

■品質良く震災前は高値で取引
 本県沖のアワビの漁獲量は震災直前の平成22年で24トン。品質が良く、市場でも高値で取引されていたという。

■いわき近海2万個放す
 県栽培漁業協会は、27日に延期していたアワビの稚貝放流を、悪天候のため7月1、2の両日に再延期した。
 約3センチの稚貝2万個を放す予定だった。7月1日にいわき市の江名、永崎、下神白の各海域に1万9000個、2日に同市中之作海域に1000個を放流する予定。同協会は現在、いわき市の県水産会館に仮事務所を置いている。

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