東日本大震災アーカイブ

都路のコメ実りの秋 3年ぶり稲刈り「感無量」

避難指示解除準備区域の水田で3年ぶりの稲刈りに励む坪井さん=8日午前9時40分ごろ、田村市都路町

■旧警戒区域で「出荷用」初収穫 坪井久夫さん(63)

 東京電力福島第一原発事故に伴う田村市都路町の避難指示解除準備区域で8日、稲刈りが始まった。第一原発から半径20キロ圏内の旧警戒区域で出荷用のコメが収穫されたのは初めて。「品質は悪くない。感無量だよ」。生産農家の坪井久夫さん(63)は黄金色の穂を満足げに見詰めた。
 午前9時すぎ。爽やかな秋晴れに恵まれた山里に、坪井さんと妻の千賀子さん(60)が駆るコンバインの音が響いた。この日は自宅裏手の水田でチヨニシキを刈り取った。
 坪井さんは5月に3年ぶりに稲作を再開。チヨニシキやひとめぼれなど3品種を区域内の1.9ヘクタールを含む計2.6ヘクタールに作付けした。見込み収量約12トンの7割程度を政府の備蓄米に出荷し、残りを自家用と震災前からのなじみ客向けの販売に充てる。天候にもよるが、13日までに刈り終える。
 収穫を迎えても、不安が全て消えるわけではない。出荷には放射性物質の全袋検査で基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回ることが前提となる。坪井さんは田植え前から放射性物質対策として水田にゼオライトをまいたり、茎を倒れにくくする薬剤を与えたりした。周囲に電気柵を巡らせ、イノシシの食害対策にも力を割いた。
 自宅に継続的に寝泊まりできる長期特例宿泊が8月に始まるまでは、市内船引町の仮設住宅から片道40分の「通い農」が続いた。震災前には想像もしない無我夢中の日々だっただけに、実りの秋の喜びはひとしおだ。
 同市都路町の避難指示解除準備区域では64戸の農家が稲作に従事していたが、営農を再開したのは坪井さんら3戸のみ。市によると、来年は新たに10戸程度が再開する見通しという。
 坪井さんは順調に出荷が進めば、来年は耕作面積を2倍に増やすつもりだ。原発事故による風評を少しでも解消しようと、農地を映すライブカメラを導入し、生育状況を公開する構想も抱く。「検査を通るまでは安心できないが、苦労した分だけおいしいはず」と期待する。傍らで手伝う千賀子さん(60)も「今年はまず、都路のコメをお客さんに味わってもらうことが第一目標」と前を向いた。

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