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【避難区域住宅】 ネズミ被害深刻化 「戻る気なえる」 県、週内にもモデル駆除

県が避難区域の住民の家屋内で実施しているネズミの実態調査=楢葉町

 東京電力福島第一原発事故に伴う警戒区域が再編され、住民が自宅に立ち入る機会が増える中、室内をネズミに荒らされる被害が深刻化している。一時帰宅をした住民からは「家に戻る気持ちがなえる」との声が上がり、市町村も「帰還の妨げになる」と危機感を募らせている。ネズミは夏に繁殖し、秋から冬にかけ屋内に侵入するとされる。県は9月から実態調査を進めており、今週中にも浪江、楢葉町の約200世帯でモデル駆除に乗り出す。

■うんざり
 「掃除をする気にもならない」。会津若松市の仮設住宅に暮らす大熊町の石田喜子衛さん(75)は嘆いた。
 一時帰宅するたびに、ネズミの排せつ物で畳の上が真っ黒になっていた。柱や布団がかじられた跡もあった。当初は殺鼠(さっそ)剤を使っていたが、一向に被害が収まらず、最近は殺鼠剤をまくのも諦めた。
 富岡町に自宅がある農業川口有さん(72)は月に一度、避難先の郡山市からネズミに荒らされた家の清掃に行く。粘着式のわなを仕掛けた。その後、2匹のネズミが掛かっているのを見て、うんざりしてしまったという。
 いわき市の仮設住宅に住む楢葉町の佐藤久仁子さん(60)は、町内で夫と営んでいた婦人服専門の縫製業の作業場が被害を受けた。ネズミの臭いが染み付き、カビも生えた。長年かけて集めた糸や生地のほとんどをかじられ、使えなくなった。「今後、町に戻れても事業をするのは難しい」と肩を落とす。
 福島市の仮設住宅に避難している浪江町の大友啓さん(82)は「町内に人が住まなくなって2年7カ月。獣や害虫が増えるのは当たり前だが、さすがに戻る気力がなえる」と訴える。

■手探り
 避難区域を抱える市町村は一気に増えたネズミの対応に苦慮している。原発事故前はネズミの駆除業務をほとんどしたことがないからだ。
 「どうすれば効果的に駆除できるのか、ノウハウがない」。富岡町の担当職員は打ち明ける。警戒区域が再編されてから、町内への帰還を具体的に考え始める町民もおり、「ネズミが原因で帰還を諦めてしまうような状況は絶対に避けたい」と対策を検討中だ。ただ、現時点で抜本的な解決策は打ち出せていない。
 ネズミ駆除の対象が個人の家屋内であることも対応を難しくしている。行政側が個人宅に勝手に入って駆除することはできず、家人の立ち会いなどが必要になる。わなを仕掛けた後に定期的なチェックも欠かせない。浪江町の担当者は「町民は県内外に避難している。遠方の町民に駆除のために何度も戻ってくれとは言いづらい」と説明する。
 楢葉町は今年1月、全2700世帯対象に粘着式わなの配布を始めた。約6割の世帯に2個ずつ行き渡った。町職員の1人は「ネズミの数に対して足りないのは分かっているが、やれることをやるしかない」と話す。

■補助活用されず
 県の実態調査では、南相馬、楢葉、浪江、富岡の各市町で家屋に立ち入り、ネズミの出没箇所、被害状況などを調べている。捕獲したネズミを解剖し、胃の内容物などから行動範囲や生態、増加の理由などを解明する。病原菌や放射性物質を持っているかなども確認している。
 モデル駆除は、家人の立ち会いの下、殺鼠剤や粘着式のわなを家屋内のさまざまな場所で使う。効果を確かめながら11月末まで続ける。実態調査やモデル駆除の結果を踏まえ、マニュアルを作る。
 国はネズミよけの薬剤を住民に配布してきたが、効果が薄かった。県などの要望に応じて今年2月、市町村のネズミ駆除対策費用を全額補助する制度を導入した。しかし、市町村に活用されておらず、県は駆除マニュアルを生かして効果的な対策を促す考えだ。

【背景】
 県によると、避難区域の住宅に侵入したネズミに関する苦情は昨秋ごろから増え始めた。震災で屋根などが壊れ、隙間ができた箇所などから侵入している可能性がある。避難住民が地域内に残した食品や、家畜の死骸などを餌に、住宅地で増殖しているとみられる。

カテゴリー:3.11大震災・断面

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